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とうめいイトデンワと通信履歴









ずっとどこまでも続く、青い空。
広がる緑。
吹き抜ける風。

どこまでも続くマサラの地は、田舎町だと言う者もいるけれども、そんな言葉では表現できないほどの表情を持っている。
それは、どの地方でもそうなのだけれども、このカントーの片隅にあるマサラタウンも、素敵な場所だ。
ポケモンも、人も、みんなが一緒に、自然とともに生きている。

かたん、と、少しぬるくなったカフェオレをサイドテーブルに置いて、シゲルは、目を細めた。
視界に移るのは、この土地に適したきのみと、いろとりどりの花。
足元には、ブラッキーが擦り寄るようにして、寝ている。

窓ガラスの向こうにある庭からは、ポケモンたちの声が聞こえてくる。
それは、サトシが今までの旅で出会ってきた友とも言える、ポケモンたちだ。
今はここにいる彼らも、ときおり帰ってくるサトシとじゃれては楽しそうにしている。

祖父のオーキド博士に、しばらくの間、研究を手伝ってくれと頼まれて、こうしてカントーに戻ってきて。
慣れ親しんだ空気に、シゲルは、シンオウ地方にいたときには、少なくとも感じていたピリリとした空気を忘れて、つかの休息をとっていた。
もしかしたら、そんな自分を察して、呼び戻されたのかもしれない、なんて考えると、やはり孫の自分にはどこか甘い祖父を思って、つい苦笑が零れてしまう。
けれども、こうしているのも、落ち着くのは確かで。

そんな風に、ゆったりと流れる時間の中で、それはいつも、唐突に鳴り響く。

ピピピ、と、なる、音。

それに、ぴくりとブラッキーの耳が反応して、またかというように、うっすらと目を開ける。
シゲルも、はぁ、と、ため息をつくと、今度は誰だろうなんて考えながら、座っていたソファーを立って、その音源へと近づいた。
そして、ぴ、と、タッチパネルに触れる、と。

「おっそい!女の子を待たせるなんてどういうつもりなの?」
「……そんなことを言われてもね。ちょっと離れた場所にいたんだよ」
「どうせ嘘でしょ。顔に書いてあるもの」

せっかくおてんば人魚のカスミちゃんが連絡してあげてるのに!
なんて言う彼女に、シゲルは、内心でため息をついた。

「で、今日はどうしたんだい?」
「あ、すっかり忘れてたわ。今度サトシに会うのはいつ?」
「そんなの僕が知りたいくらいだよ」
「あら、待ちぼうけってやつね」

あのシゲルがねー、なんて、にやにやしながら聞いてくる彼女に、困ったような笑みを向ければ、つまんない、なんて言われて。
昔から気が強かったのは記憶にあるが、今もそれはしっかり健在のようだ。
そして、彼女は、サトシが、サトシに、と、いくつか彼への伝言を頼むと、用は済んだとばかりに通話を切った。

そんな彼女に、やれやれと思う間もなく、再びなる、ぴぴぴという電子音。

ちらりと、こっちを見てきたブラッキーと目が会う。
それに、つい苦笑で返すと、たった今まで使っていたそれに、もう一度向き合って、シゲルはタッチパネルに再び触れた。

「はい、こちら、オーキド研究…」
「やっぱり!川柳の人のお孫さん!」
「……ひさしぶり、ヒカリ」

あ、シゲル。なんて、いまさらのように名前を呼ばれて。
分かってて呼んでるだろ、面白がってるだろ、なんて、さすがに女の子相手になんて言えなくて、シゲルは微かに笑みを見せる。

「で、今回はサトシになんて伝言かな?」
「え?なんでわかったの?」
「……まぁ、いろいろ、ね」

さすが川柳の人のお孫さんね!
なんて、はじけるような笑顔で言ってくる彼女も、さすがサトシと今まで旅をしてきただけあるな、なんて、シゲルはぼんやり思った。
そして、そんなぼんやりとした相槌でも、ヒカリはまったく気にせずに、サトシへの伝言を、シゲルへ伝える。
うん、うん、とどこか遠くを見ながら聞くシゲルを慰めるように、いつの間にか、足元には、ブラッキーが、擦り寄っていた。


そして、長々と語られること三十分。
ようやく解放されたシゲルは、ぼすん、と、ソファーに沈み込む。

あぁ、もう。

確かに、確かにサトシは、あの明るい笑顔が魅力だ。
そして、一度関わると、もう彼を放っておけなくなる気持ちも、分かる。
分かるもなにも、それが一番ひどいのは、シゲル自身だと、彼は理解していた。

だが。

だからといって、どうしてこうもみんな、自分へとサトシ宛ての伝言を頼むのか!

理由は分かっている。
サトシは、地方を越えて旅をしている。
それは、街にいることもあるけれども、時には電波も入らない森や山の中にいる。
むしろ、そっちの方が多いと、今まで一緒に旅をしてきたの者や出会った者はしっかりと理解しているのだろう。
だからこうして、今はカントー地方のオーキド研究所にいるシゲルに、伝言を頼むのだ。
彼なら、サトシと必ず連絡し合うと分かった上で。
そもそも、どうしてこうやってシゲルがマサラタウンに帰ってきていると、みんなに情報が伝わっているのかは、謎だけれども。

けれども、伝えるのは、シゲルの自由だ。
聞くだけ聞いて、伝えない、そんなことだってできる。
できる、のに。

それができないのも、シゲル、だった。

結局は、ちゃんとその伝言を伝えてしまうのだ。
だって、みんなの様子を伝えると、サトシが、嬉しそうに笑う、から。
嬉しそうに、みんな元気そうで良かった、なんて、笑うから。

だからシゲルは、こうして、みんなからの連絡を受け取ることができるリビングに、こうしているのだろう。

そして、その連絡の中には、ほんのたまに。


「シゲル!ひさしぶりだな!!」


君がいるから、待ってしまう。
本当は、君の声がするんじゃないかと、期待して、しまうから。

そして、画面に映し出されるサトシの笑顔を見て、シゲルも、やっぱり、笑みを零してしまうのは、もはやいつものこと、になりつつある。
もしかしたら、そんな日常に苦笑をもらしているのは、ブラッキーなのかも、しれない。



黒い耳が、二人の楽しそうな会話を聞いて、ぱたん、と、動いた。






とうめいイトデンワと通信履歴
要はみんな、君がスキってことさ!







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