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マルチプル・ラバーズ5




あるところに、二人の男の子がいました。
太陽のように明るく笑う、深紅の瞳の男の子。
そんな彼の横にいる、翡翠の瞳の男の子。

二人はとても、仲が良かったのです。
良すぎたのです。

いつしか、彼らは、相手に惹かれていきました。
これも、当然と言えば当然のことだったのでしょう。
なぜならば、それほどに、彼らは、仲がよかったのですから。

けれども、深紅の瞳の男の子は、考えました。

翡翠の瞳の彼は、周りからの信頼も絶やさず、将来も明るい。
そんな彼に、自分なんかが、釣り合うのだろうか、と。

翡翠の瞳の彼は、そんなもの気にしなくていいと、言ったけれど。
ただ、深紅の瞳の彼と一緒にいたい、と、言ったけれども。

深紅の瞳の男の子は、一人で、考えました。
真っ暗な夜に、一人ぼっちで、膝を抱えて、考えました。




(あぁ、おれなんかじゃ、だめだ)


(たとえば、おれが、もっと聞きわけのいい性格だったら、よかったのかな)
(それとも、もっと頼れる性格だったら)
(後先考えないのが、いけないのかな)
(女の子、だったら、よかったなあ。そうしたら、)





おれなんかじゃ、だめだ






そうしてカレは、一人、涙をぽたりと流して、眠りについたのです。



はたして、夢の中のカレは、翡翠の瞳の彼に、言われたのでしょうか。
ああ、オマエとなら、俺は、幸せになれるよ、愛せるよ、と。


カレは、自分自身では、彼に釣り合わないと、気がついたのです。
ならば、自分を変えればいいと、夢の中で気がついたのでしょう。
そうして、カレは、自分を変えていきました。
いつか、翡翠の瞳の彼に、釣り合う自分が、愛される自分が、できあがれると信じて。
翡翠の瞳が気に入らなければ、新しい自分を作り上げればいいのです。


けれども、いつも、翡翠の彼から返ってくる答えは、一緒でした。


どのカレも、翡翠の瞳の彼は、お気に召さなかったのです。
けれども、どのカレも、翡翠の瞳の彼に、恋をしました。
ヒトリの身体の中にできた、四人の人格は、誰もが全て、翡翠の瞳の彼を、愛してしまいました。

そうして、翡翠の瞳の彼は、どのカレが眠る直前にも、最後に、こうやって、呟いたのです。


「お前の中の、一人だけ、愛するから。俺には、一人しか、愛せない、一人しか選べない」


ぽつりと響く声に、カレらは、焦りました。
あぁ、自分は、愛してもらえないと。
ほら、愛してももらうために、また新しい自分を創らなくちゃ。

そして、カレらは、気がついたのです。


「俺が、お前を愛してるのは、知ってるだろう、レッド。…逃げるな、レッド」


カレらは、最初から、持っていたのです。
翡翠の瞳の彼に、愛されるであろう、人格を。


そして、残りの彼らは、その人格を、呼びました。
ほら、君の番だよ、愛されようよ、愛されてるんだよ。





そうして、お話は、最後のページへと続くのです。





X人目
方程式よりも簡単で難しい、それだけのお話






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あきゅろす。
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