マルチプル・ラバーズ4 ぴちち、と、鳥の声がする。 目にかかる朝の光に、彼は、ぱちりと瞳を開けると、んーっ!っと声をあげて背を伸ばす。 あぁ、今日もいい天気だ! こんな天気のいい日には、みんなで外に行きたくなってしまう。 ピクニックとか、いいかもしれない。 そうだ、いつも高い書類の山に埋もれているグリーンも誘って、今日は、ピクニックに行こう! 彼はそこまで考えると、ベッドを飛び出して、グリーンがいるであろうリビングに走った。 そういえば、昨日はグリーンの家に泊まらせてもらったんだっけ? そんなこと、どうでもいいけど! ばたん!と、開けて、飛び込んだ部屋には、もう、すでにグリーンがいた。 「おはよう、グリーン!」 「あぁ…体調の方はどうだ?」 「え?どうって言われても…うーん…いつもと一緒?」 「そうか。…ならいい」 グリーンと目が合い、ついつい嬉しくて笑みを零すも、グリーンは固い表情のまま、近づいてきて質問をしてくるだけ。 そんな様子に、彼は、首を傾げつつ、問われたことに素直に返す。 そうすると、彼は、微かに、詰めていた息を吐き出し、そうして、やっと、微かに口元を緩ませて、頭を撫でてくれた。 おはよう、と、言われながらそんなことをされると、ついつい、頬が赤くなってしまう。 とくとくと、鳴る、心音。 あぁ、今日は、きっといい日になりそうだ! 滅多に笑ってくれないけれども、その分、グリーンの笑みが見れた時は、なんだかそれだけで一日が幸せに過ごせる気がする。 それに、ここ最近、あまりよくなかったグリーンの機嫌も、今日はいいみたいだ。 もしかしたら、ピカチュウも、よくなってるかもしれない。 ピクニックに、気分転換につれていったら、ピカチュウの体調も、良くなるかもしれない! だから、彼は、太陽のような笑顔のまま、彼に腕にじゃれついてくっつきながら、言った。 「なぁ、今日はみんなで外に行こうぜ!ピクニック!」 「そうだな、天気もいいし、丁度いいか」 「やった!じゃあ、おれ、ピカチュウ起こしてくる!」 嬉しくて、すぐにでも行きたくて、まだベッドで寝ているであろうピカチュウの元へ走ろうとした、その瞬間、離れたはずの腕を、ぱしん、と、勢いよく、掴まれた。 誰にって、グリーンに、だ。 どうしたのだろう、と、振り向くと、そこにいるグリーンの表情に、さっきまでの柔らかい笑みはなくて。 それに驚いて、ぱちっと瞬きを一度すると、グリーンは、大きくため息をついた。 「今度のは…レッドそっくり、なのか」 「どうしたんだよ、グリーン。なぁ、痛い、腕、離せよ」 ぽつりと呟かれた言葉は、彼の耳には、残念なことに、入らなかった。 ぎゅっと握られた腕は、赤くなる。 あぁ、あぁ、今度は上手にできたと思ったのにな。 そんな言葉が、ぽつんと、彼の頭の中に浮かぶ。 今度は? 上手に? なんのこと? ずきずきと痛む頭に、目を細めると、ぐっと、グリーンに腰を抱かれた。 気がついた時には、目の前に、彼。 あれ、これって、なんだか、昨日も、似たような、そんなことは、ない。 ずきんずきん、と、頭が鳴る。 目の前に、広がる、翡翠。 細まる、翡翠。 だめだ、だめだ。 こんなんじゃ、だめだ。 あぁ、おれでも、だめだったんだ。 そんな、文字の羅列が、彼の頭の中に、広がる。 「レッド、逃げるな」 逃げるって、なんのこと。 どきん、と、心音が、一際大きく、なった。 4人目 おれでも、だめ? [*前へ][次へ#] |