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マルチプル・ラバーズ2







静かに明けた夜に、むくりと、彼は静かに起きる。



ふあ、と、欠伸をすると、彼は、ぼんやりと外を見つめた。



「…あさ」



かたかたと揺れる、腰に付けたモンスターボールに気がつくと、彼は、それをそっと取って、ポン、と、開けた。
中から出てきたのは、赤いほっぺたの、可愛らしいピカチュウ。
ふるりと頭を揺らし、それと一緒に揺れる大きなしっぽに、彼は、口元を微かに緩める。

「おはよう、ピカチュウ」

そっと、頭を撫でてあげると、カレ、の、ピカチュウは、いやいやと、首を横に振る。
そして、肩に飛び乗ってくると、心配そうに顔をのぞきこまれた。
そんな姿に、逆に彼が首を傾げると、ピカチュウは、ピカ…と、寂しそうに鳴く。

どうしたのだろうか、元気がない。
そうだ、こういうときは、彼に相談してみよう!
だって、彼は、自分の何倍も、ポケモンに関しての知識を持っているのだから!



そして、彼は、どこか軽やかな足取りで、家を後にした。



かちゃりと、開ける扉。
ジムまで行くと、ジムトレーナーたちに、グリーンはこっちだと、案内された。
そこは、グリーンがいつも、書類整理をするのに使う部屋だ。
そして、やはりそこには、予想通り、茶色のつんつん頭。グリーン、だ。

さて、とりあえず来たのはいいものの、どうしようか。
元気のないピカチュウの相談をしたいのも山々だけれども、なんだかグリーンはとっても忙しそうだ。

そんなことをぼんやり考えながら、彼は、部屋の隅にある、質素な簡易ベッドに腰掛けた。
そのまま、じっと、作業をするグリーンの背を見つめる。

「…どうしたんだ、レッド」
「………」
「レッド?」

くるり、と、グリーンが振り向く。
普段ならば、ずっと作業をしているのに、めずらしい。
いいや、そんなことよりも、今はピカチュウだ。
しかし、ゆっくりと回転する彼の思考よりも、グリーンの思考の方が、幾分か回りが早かったらしい。

「珍しいな、そんなに大人しいなんて。…昨日のことを、まだ怒っているのか?」

昨日のこと?
なんのこと?

おかしなことを言うグリーンに、彼は、ぱちぱちと瞬きをする。
そして、なんのこと?と問うように、首を傾げると、グリーンの眉間に皺が寄った。

「…ピカチュウ」
「え?」
「ピカチュウの、様子が、へん」

いつの間にか膝の上に乗っていたピカチュウを抱き上げて、グリーンに見せる。
そうすると、さらにグリーンの眉間に皺が寄る。
そんなに、ピカチュウの体調はおかしいのだろうか。

「ピカチュウって…ピカのことか?」
「…?そうだよ?…変なグリーン」

いつもなら、すぐにわかってくれるのに。
今日のグリーンは、なんだかおかしいな、疲れているのかな。

彼からピカチュウを受け取ったグリーンは、ピカチュウと顔を見合わせて、そして、もう一度、彼のことを見る。
じっと、交わる視線。
彼は、もう一度、ゆっくりと、瞬きをした。




「どうしたの、グリーン、なにか、おかしいことでも、あった?」





その翡翠の瞳に見つめられて、彼の心音が、ほんの少しだけ、早まった。





2人目
ぼくは、おかしくなんてないよ





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