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キティ




ざぁざぁと、雨が降る。
その日、僕は、透明なビニール傘を片手に、暗い路地を歩いていた。
アッシュフォードの制服は黒くて、この闇にすぐにとけてしまう。
ところどころ、ぽつんとたっている街灯の灯を頼りに、スザクは、足を速めた。

が。

だんだんと、その歩みは、ゆっくりとなって、そして終いには止まってしまう。
そんなスザクの目の前には、びしょぬれの、段ボール箱が、一つ。



みゃあ



弱々しい鳴き声が、雨音にかき消された。





「ほら、恐がらなくていいから。だからおいでー、あったかくておいしいミルクですよー」



強い雨の中、生徒会の仕事を終わらせて帰る途中で見つけた、小さな段ボール。
びしょ濡れのその中には、黒くて、ふわふわした、小さな生き物が、二匹、入っていた。
ずいぶんと長い間、雨に濡れていたのか、その二匹は、身を寄せ合ってぷるぷると震え、かなり衰弱しきっていた。
一匹は、もう意識もないのか、小さく丸くなり、もう一匹は、必死に熱を分けようとすり寄っては、小さな舌でちろちろと、その耳を舐めてやっていた。
覗き込んだ段ボールの中にいた、二匹。
そんな二匹に、僕は、身捨てることなんてできず、つい、連れて帰ってきてしまったのだ。
この、小さな黒猫二匹を。
腕に抱いた小さな命は、あったかくて、でも、ぷるぷると震えていて。
一匹は寒さに震えるだけだったけれども、もう一匹は警戒しているのか、もう動くのも辛いだろうに、弱弱しく僕の服に、かりかりと爪を立てていた。
そして、家について、すぐさま、二匹を一枚ずつタオルで包んでやる。
軽く毛についた水分を取ってやり、そのあとに、冷蔵庫に残っていたミルクを人肌にまで温めて、小さな小皿に移す。
それを持って、仔猫たちを置いてきたリビングに戻ると、それぞれ一枚ずつに包んだタオルの片方が、ぺらりと落ちている。
あれ、と、思い視線を巡らすと、もう一枚のタオルが、もぞもぞと動いていた。
その中を覗き込むと、小さな黒いふわふわが、二つ。

(仲、いいんだな、この二匹)

というよりも、見分けはつかないが、比較的元気な方が、もう一匹から離れたがらない。
けれども、一緒がいいというなら、無理やり離す必要性もないわけで。
だから、二匹まとめて、その小さな体を手のひらで包んだ。

そして、最初の台詞に戻る。

二匹は、というよりも、片方が、警戒して飲もうとしないのだ。
もう片方は、飲む元気もないのか、僕の手の中でくたりとしている。
せめて、元気のない方には、早く与えてあげたいと思っても、その一匹を庇うように、もう一匹が、もぞもぞと動く。

「食べないと元気でないよ。大丈夫、だから、ね、飲んで…?」

いくら小皿を近づけても、二匹は飲まなくて。
しょうがないから、僕は、いったんその小皿を、テーブルに置く。

さて、どうしようか。

ううん、と、考えて、結局、今まで小皿を持っていた方の手の人差し指を、ちょん、と、ミルクに浸し、そして、少量のミルクがついたその人差し指を、比較的元気な方の仔猫の口元に近づけた。
しばらくその子猫は、小さく鳴き続け、でも、僕が粘り勝ちをしたのか、最後に、ちろりと、小さな赤い舌を出して、指先を舐めた。
その後しばらく、仔猫は考えるように大人しくなり、とりあえず少しだけ警戒はとれたのか、再びちろちろと僕の指先を舐める。
と、そこで僕の指先からミルクが消え、僕は、もう一度、指先をミルクで浸してから、仔猫の前に差し出した。
すると今度は、仔猫は、舐めるのではなく、ちょん、と、自分の小さな鼻に大きなミルクの滴をつける。
ひたりとミルクで鼻を濡らし、どうするのだろうと見ていたら、仔猫は、くたりと力なく僕の掌にいるもう一匹の口元に、くいくいと鼻先をこすりつけた。
もぞもぞもと動き、寄り添う二匹。
くたりとしていた一匹が、ぴくりと動く。そしてうっすらと目をあけると、ちろり、と、もう片方の鼻先を舐めた。
そして、何度が、その仔猫は、僕からミルクを受け取り、もう一匹に渡す。
それを繰り返す。
何度目かの往復で、与えられていた一匹が、小さく、みぃ、と、鳴いた。
そうすると、それに気がついた一匹は、ミルクを与えるのをやめて、その一匹に、すり寄る。
そして、二匹とも、再び瞳を閉じて、寝てしまった。

「……すごいかわいい……」

さっきまでは警戒していたのに、今は、すうすうと、二匹仲良く僕の手のひらで寝ている。
ほう、と、静かに息をはくのと同時に、さっきまで元気のなかった仔猫が、再び目を覚まし、小さな声で、みゃあ、と、鳴いて、僕の手のひらを、舐めた。
なんだか、お礼を言われているような、気がする。
そんなことを思っていると、その子猫はまた丸くなり、もう一匹とくっついて、寝てしまった。



僕の手のひらで、小さな命が、仲良く眠る。







小さくて、黒い、ふわふわとした、いきもの。
さむい。たすけて。あったかい。ねむい。




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