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ナイト オブ ラウンズ





ふわりと、カーテンが舞う。
夜の帳。
星がきらきらと瞬く。
それを眺めながら、風に黒髪を舞わせて、紅い瞳を空へ向けた。
窓から眺める空は、いつでも、どこでも、変わらない。
変わってしまったのは、全て自分たちだけ。
主のいない部屋は、なんとなく寂しい気がした。
ぼんやりと外を見ていると、道の向こうから人影が現れる。
その姿に、ゼロは、すっと瞳を細めた。
そして、その数分後に、主のいなかった部屋に、その人が入ってきた。

「おかえり」
「ゼロ、きてたのか…監視カメラは?」
「少し弄らせてもらった。久々の逢引に、あんな無粋なものに邪魔されたくないだろ?」

そう言えば、ルルーシュは、紫の瞳を細め、小さく笑みを浮かべると、そうだな、と、呟いた。
そのまま、鞄を机に置き、制服を脱ぎ始める。
その後ろ姿を見ながら、ゼロは、寄りかかっていた窓縁から離れた。

「……まさかとは思うが、あのカメラが回っているときにもこうして着替えているのか?」
「それ以外どうしろっていうんだ。死角があったとしても、そんなところで着替えたらいろいろと問題があるだろ?ばれるかもしれない」
「………そういう問題じゃない」
「そういう問題だ」

きっと、今、この部屋にある監視カメラは、誰もいない部屋を映している。
このクラブハウス周辺のカメラには細工をしておいたからだ。
しかし、そんな仕掛けが動くのも自分がこの部屋に訪れているときだけであって、普段はそのままの映像を流している。
ということは、寝起きから着替え、眠る瞬間、ましてや寝顔まで、この片割れは敵にさらしていることになる。
十歩、いや、百歩譲って、昼間の姿を監視することは、許すとしよう。
しかし、寝顔、寝起きのとろんとした表情、その上着替えまで。
再開したときに資料にと渡された、あの手帳を思い出す。
人の大事な弟を、なんだと思っている。

「っ、痛い、ゼロ、力いれすぎ…!」
「……ブリタニアめ……!」
「話を聞け!」

後ろから近づき、ゼロはルルーシュを抱きしめる。
監視の目がつき、以前のようには会えなくなった片割れ。
ぎゅ、と、抱きしめると、なんだか甘い香りがする気がする。
うっとりとその香りを楽しんでいたのもつかの間、腕の中で動いていたルルーシュに、身体を離されてしまった。

「…ゼロ、寂しかったのはわかる。おれもだから。だが、服が着れない」

目前に、自分と同じ顔が映り、そして、少しだけ、眉間に皺が寄っている。
怒らせてしまったらしい。
しかし、せっかく会えたのに、と、思いながらも、ゼロはその言葉に素直に頷き、ベッドに座った。
ルルーシュは、ズボンを履き、桃色のシャツを羽織る。そして、緩く黒のネクタイ。
初めて見る服だな、と、思った。
そして、着替え終わると、今度はルルーシュの方から抱きしめてきて。
そのまま重力に逆らわずに、二人してベッドに沈む。

「なんだ、ルルーシュだって寂しかったんじゃないか」
「そう言っただろ。ただ、さっきは着替えられなかったから怒ったんだ」

ちゅ、と、目元に唇を落とされる。
だから、自分もお礼に、鼻先にキスを落とす。
幼いときのように、二人で手を握り、指を絡めて、空いているもう片方の手で腰に手を回して引き寄せると、ルルーシュはゼロの首に腕をまわす。
この瞬間だけ、世界はとてもやさしい。
ふたりでくすくすと笑えば、扉も閉まり、窓も閉められたこの部屋しか、世界は存在しない。
自分たちだけの、世界。
しばらくそうやってじゃれあって、離れていた分を埋めるように、抱きしめあう。

「しかし…やっぱり許せない」
「何がだ?」
「この部屋だ。ルルーシュのプライベートもなにもかも、ないじゃないか」
「仕方がないさ。けど、その代わり、おれとゼロのアリバイが証明できる」

だから、そういう問題じゃなくて。
ゼロは、そう言葉を紡ごうとし、けれども、それではさっきと堂々巡りだと思うと、言葉の変わりに深くため息をついた。
その姿を見て、ルルーシュは困ったように笑う。
そして、ゆっくりと、言い聞かせるように、互いの額をくっつけ、言う。

「おれは大丈夫だから。おれが監視の目をひきつける。だから、その間にゼロは動け。ゼロの助けになっていると思えば、監視されているのも悪くはない」

その言葉に、ゼロは、何も言えなくなる。
確かに、ルルーシュがこうして監視の目をひきつけてくれていた方が、黒の騎士団のゼロ、と、しては動きやすい。
おそらく、ブリタニア側には、ルルーシュとゼロは同一人物として思われているのだろうから。
けれども、ルルーシュのために存在しているはずの自分が、逆にルルーシュに守られているというのはどうなのだろうか。
幼い頃、この日本へ送られたのも、一年前、皇帝の前へと引きずり出されたのも、大切なときに犠牲になるのは、いつも、自分ではなくて、ルルーシュだ。
だから、この穏やかな日常から、戦場へとは連れて行きたくない。
けれども、この箱庭も、すでに、安息の地とは言えなくなっていた。
本人は大丈夫と言っているが、この片割れの神経は、自分よりも細く、繊細なのは知っている。
だから、きっと、いつまでも見られているという現状に、安心して眠ることもできないのだろう。
それを表すように、まだ、普段ならば寝るような時間ではないのに、監視されていない、そして自分がいるこの状況に、ルルーシュの瞳は眠たげに瞬きを繰り返してる。
せめて、一時の安らぎだけでも、与えられたなら。

「…ルルーシュ、起きているか?」
「…ん…?どうした、ゼロ…?」
「実は、しばらく、黒の騎士団の行動予定はない。だから、そうだな…三日ぐらい、あっちに行ってこい」
「……意味がわからない…」
「アッシュフォードにも軍のやつらがいる。それを逆に利用しようかと思うんだ。あと、あの、ロロとかいうやつも。だから、しばらく交換だ」

しばらく、無言だったルルーシュは、小さく、分かったと呟くと、今度こそ、眠りの中に落ちていった。
ロロはいい子だから、と、最後に呟き。
あれほど言ったはずなのに、この片割れは、すでに偽りの弟に絆されていたらしい。
優しさは時に、甘さであり、邪魔なものになると、一年前のことで学習し懲りたのかと思っていたが、健在だったらしい。
それが片割れのいいとことでもあり、欠点でもある。

「だが、これでルルーシュも休める。…おやすみ、ルルーシュ」

ちゅ、と、額にキスを落とし、ゼロも瞼を落とす。

そして、ルルーシュとゼロが入れ替わって二日後、学園に、枢木スザクが復学してきた。
思い出す、一年前。
大事な片割れを売った、憎いヒト。
片割れが、スキだったヒト。
今でも、スキな、ヒト。

けれども、逆に、今、このヒトと再会したのが、自分でよかったと心底、ゼロは思った。
そして、片割れだったら、感動のあまりに泣き出していたに違いないと思う自分に、項垂れた。











ナイト オブ ラウンズ
(……入れ替わっていて、本当によかった。本当に!)












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