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3RD STATION





僕は、運命を信じている。



運命の出会い。
運命の赤い糸。
運命の人。
運命。

それは、これからの僕を表し、予定し、作っていく言葉。
僕の過去も今も未来も、この運命によって成り立っている。
だってそう考えたら、ただすれ違っただけの出会いでさえも、何か意味を持ってくるのだから。
それってなんて素敵なことなんだろうって思わない?
だから僕は、運命って言葉が好きだ。

良いことが起きたなら、それはきっと運命によって決められていたことなのだろう。
そう考えると、ほら、なんだかとってもロマンチックな気がしてくる。
悪いことが起きたなら、それもきっと運命によって決められていたことなのだろう。
そう考えると、ほら、ならばしょうがないって諦めることができる。



そう、だから僕は、誰が何と言おうと、運命を信じているんだ。









その日、ルルーシュはいつものように食材をスーパーで買ってから家に帰り、そのままいつものように夕飯を作った。
ゼロとナナリーだっていつものように笑って出迎えてくれて、二人も一緒に夕飯を作るのを手伝ってくれて。
いつもと何も変わらない、ただの平凡な放課後だった。

ただ、ナナリーが夕飯の途中に、せいぞんせんりゃくー!!なんていきなり叫びだしたりさえ、しなければ。

先日、ナナリーの姿を借りたC.C.という少女と、ナナリーの命と引き換えに彼女の願いを叶える、ピングドラムを探し出すと契約したゼロとルルーシュだ。
彼らだって、ピングドラムが何であるのかさえ分からないけれども、でも、ナナリーを救うためにと、形も何も知らないそのピングドラムを探して駆けずり回っていた。
唯一のヒント、枢木スザクがそのピングドラムというものを持っているらしいという、それだけを手がかりにして。

ゼロとルルーシュが、その後に手に入れた情報は、枢木スザクという人物が、彼らと同じアッシュフォード学園に通っているということと、彼が同学年であること、運がいいことに隣のクラスに在籍していること、それから、恐ろしく運動神経がいいらしい、というその程度のものだった。
あとは、天然だとか、優しいだとか、空気が読めないだとか、使えるのだか使えないのだかよくわからない情報ばかりだ。
そして、ナナリーの体調も安定し、以前から世話になっている咲世子というヘルパーがナナリーの身の回りの世話をみてくれるようになってからゼロも学校生活に戻り、ルルーシュと二人で噂の枢木スザクを調査しようとした。
の、だが。
運が悪いのか、タイミングが悪いのか、それとも相性が悪いのか、ゼロとルルーシュは、枢木スザクの噂は掴めども、本人に会える機会がまったくもってなかった。
授業が終わった直後に隣のクラスに駆け込んでも、それよりも前に驚くべき早さで枢木スザクの方が一足早く出かけていたり、ならば朝、彼のクラスの前で待ち伏せをしても剣道部の助っ人で大会に出場してそもそも学校にこなかったり。
かと思えば、ゼロとルルーシュが昼食を食べ終わって教室に戻ってきたときに、クラスメイトたちに今まで枢木スザクがこのクラスに来ていたのにと言われる始末だ。
なんだこれは、避けられているのかとゼロがついに堪忍袋の緒を切らせて怒っても、クラスメイトたちはまぁまぁとゼロのことを宥めて、それから肩を竦めてこういうのだ。
あいつ、信じられないくらい空気読めないんだよ、だから許してやって、と。
空気が読めないって、何か違くないか。
ルルーシュが内心でそう思うその真横で、ゼロが、これは空気が読めるとか読めないとかの問題じゃない!と、やはり、切れた。

とにかく、ここ一週間、まったくもって、ゼロとルルーシュは、噂のピングドラムを持っているという噂の枢木スザクに、会えていなかった。

がっくりと二人でうなだれ、さてどうしたものかと、ナナリーが寝てから二人で相談して気がつけば三日目、ついに、ナナリー、いや、C.C.の方からお呼びがかかってしまったのである。

と、ここまで、ルルーシュからそんな説明をされたC.C.は、眉間にはっきりと皺を寄せて、それから、大きくため息を吐き出し、最後に、役に立たない双子だな!と、吐き捨てた。
それに、ゼロとルルーシュは反論したくても、できたものではない。
だって、確かに、自分たちでもこれはないだろうと肩を落としていたところだったのだから。



「明日の朝七時三十分、前から二両目二つ目の扉に東高円寺駅から枢木スザクが乗ってくる。たぶんな」



ぱちっと目を瞬かせたルルーシュは、さらりと髪の毛をはらうナナリー、いや、C.C.を見つめる。
それから恐る恐る隣に立っているであろう兄のゼロを見ると、分かっていたならさっさと伝えればこんなに苦労しなかったのにと文句をこぼしていた。
確かに、この情報さえ先にくれれば、ルルーシュたちはこの一週間をもっと有意義に過ごせていたはずだ。
そして、今回は本当にこれだけが用件なのか、ぐらりと、きらきら輝く不思議な空間が歪み始める。
まるで、夢から覚める瞬間のようだと、ルルーシュは思った。
夢、なのかもしれない。
夢だったら、どんなにいいだろう。
契約だなんて言葉に怯えず、医者の言うように、ナナリーの体調が奇跡的に現代医療の手によって助かったのだとしたら。
けれども、これは夢ではないのだと、ルルーシュは知っていた。

ぱちっと目を開けると、視界に移るのは見慣れた天井。
それから、横には自分と同じようにぼんやりと天井を見つめるゼロ。
二人同時に落ちる、大きなため息。

「東高円寺、か」
「七時半って一番混むやつじゃないか……」

夢にしては覚えすぎている内容、お互いに合致しすぎる記憶。
そしてルルーシュは、明日乗らなければならない電車が、この間の一人で乗ったときの満員電車だと気がつく。
瞬間、再生される一つの記憶。
支えられた身体、耳元で聞こえた甘い声、間近で見た翡翠の瞳。
どくんと、一瞬だけ心臓が跳ねる。
ルルーシュは知らない。なぜ、自分の心臓がこんなにも大きく跳ねたのかを。
だからルルーシュは、ため息のような深呼吸を一つ落とした。
ぽふりとゼロが慰めるように頭を撫でてくれたのが、唯一の救いだったのかも、しれない。


そして、次の日、ゼロとルルーシュはC.C.に言われた通りの電車に乗り込んでいった。
通学時間真っ只中で、少し気を抜けばすぐに流されてしまうくらいに混んでいる車内。
普段、ルルーシュたちが乗る電車よりも少し遅めのこの電車の混み方に、ゼロは、不満そうに眉を寄せた。

「だからこの時間の電車は嫌なんだ!」
「今日だけだから我慢してくれ、ゼロ」
「っ、ルルーシュ、もっとこっちに来い」

ガタゴトと揺れる電車の中で、小さな声で会話をする。
時折向けられる視線は、きっと、互いに鏡に映したようにそっくりなゼロとルルーシュが珍しいからだろう。
それもゼロの機嫌を悪くする要因だと分かっているルルーシュは、そんな視線からルルーシュを守るように立つゼロにちらりと視線を向けつつ、ため息をはく。
けれども、ゼロだってルルーシュと同じように華奢な身体つきだ。
ガタリと揺れる電車と流れる人ごみに押されないようにと気をつけても、大変なのだろう。
またしても手にすることのできなかったつり革に、ゼロとルルーシュは互いの手を握ってなんとかバランスを取り合う。
一度、電車の扉が開く。
東高円寺駅だ。
ゼロとルルーシュは互いに視線を一度絡ませた後に、周りに目を配らせた。
この駅で、枢木スザクが乗車する、らしい。
そして、電車は、大きく、曲がり始めた。
この間のカーブだ。
ルルーシュは眉を寄せる。
耳元で、ゼロが舌打ちをした音が聞こえる。
ゼロもこのカーブに嫌な思い出があるのだろうか。
この混雑でこのカーブは、つり革を手にできなかった二人にはきついものだった。

「大丈夫?」

そう、そしてこの間も、こうやって転びそうになったときに、こんな風に声をかけられ、そしてするりと腰に手をまわされたのだ。
そこまで思い出して、ルルーシュは、ぱちっと目を瞬かせた。
耳元で、あの時と同じ声が同じ言葉を落とす。
目の前ではゼロまでもがその目を見開いていた。
それから、ルルーシュ、いや、ルルーシュの後ろに立っているであろう男を、キッと睨みつける。

「おい貴様、その手を離せ!ルルーシュに触るな!」
「あれ?同じ顔?……もしかして君たち、双子?」
「話を聞け!それから、ルルーシュに触るなと言っている!」
「無理だよ。だって彼、ルルーシュ、だっけ?今、手を離したら確実に転ぶよ?」

だからちょっと待ってね、と、耳元で甘やかな声がもう一度落とされた。
ルルーシュはただ、こくこくと頷くことしかできない。
なんだこれは。
ぎゅうと抱きしめられているおかげで、確かに転ぶことはない。
だが、普段、ゼロとナナリー以外に触れることのないルルーシュにとって、いきなりのこの触れ合いは慣れないもので。
目の前でゼロがおそらくこの間の彼に冷ややかな視線を送っていようとも、ルルーシュは、ただその慣れない他人の体温に頬を赤らめるしかできなかった。

そして、電車が学校の最寄り駅につく。
前回と同じように、そのまま彼に手を握られ、ホームの外に出される。
もちろん、今回はゼロも一緒だ。
それから彼は、ルルーシュの目の前に立つと、今度は気をつけてねと笑った。
そして、ルルーシュが礼を言う前に、あ、と言うと、友達がいるからと言って、背を向けて小走りで去って行く。

「何なんだ、あいつは」
「分からない。だが、今回も前回も、お礼、言えなかった……」
「前回!?ルルーシュ、お前、あいつと前にもこんなことに!?」
「あぁ、混んでたときに助けてもらったんだ」

はあ、と、ゼロがそれはもう大きなため息をつく。
それにルルーシュが首を傾げると、なんでもないと返された。
なんでもないのにどうしてそんなにため息をつくのだろうか。
ぽふぽふとゼロに頭を撫でられていると、その時、ふいに、二人の耳にある男子高校生たちの声が入った。



「たく、どこ行ってたんだよ、スザク!」



ばっと、ゼロとルルーシュは互いの顔を見る。
スザク。
東高円寺駅から乗車し、ピングドラムを持っているという、枢木スザクのことだ。
この一週間、ゼロとルルーシュが探し続け、そして、まったく姿を現さなかった人物。
ばっと視線を向けると、そこにいたのは。

「ごめん、ちょっと人助けしてた」
「お前、ほんとそういうの好きだよなー」
「そうかな?困ってる人がいたら助け合わなくちゃ」
「はいはい」

くるくると柔らかそうな茶色の髪、ゼロとルルーシュと同じ制服、翡翠の瞳、甘い声。
ルルーシュを混雑した電車の中で支えていた、あの、男、だった。

「あいつが、枢木スザク…?」

ぽつりと、ルルーシュは声を落とす。
あいつが。
あいつが、枢木スザク。
ピングドラムを持っている、枢木スザク。

「行くぞ、ルルーシュ!」

ゼロが、ぱしりとルルーシュの手を掴む。
そして、人混みに紛れて、二人は、スザクの後を、追った。



それから一日、ゼロとルルーシュは、スザクの後を追って過ごした。
学校内はもちろん、放課後もだ。
枢木スザクが持っているというピングドラムのことを調べるには、これしかない。
けれども、一日調べても、スザクが持っているものの中で、ピングドラムだと思えるような物は、何一つなかった。
普通に授業をうけて、普通に友達と昼食を食べて、普通に帰宅し、その途中で普通に寄り道をする。
何もかもが普通の、高校生だ。

「なぁ、ゼロ、これって何か意味があるのか……?」
「とりあえずは枢木スザクのことが分からないとピングドラムのことも分からないからな」
「でもこれって、ストーカーみたいだと思うんだが」
「ナナリーのため、だ。諦めろ、ルルーシュ」
「………」

ひょこりと、電信柱の陰から顔をだし、駅前のベンチに座って誰かを待っている様子のスザクを見る。
それがどこかストーカー地味ているとルルーシュが零せば、ゼロが遠回しに肯定して、さらにルルーシュは肩を落とした。
一応とはいえ、二度も電車内で助けてくれた相手をストーカー。
恩を仇で返すような行為に、ルルーシュの良心が傷む。

「それにしても、あいつ、さっきからずっとあそこに座ったきりで動かないな」
「誰かと待ち合わせでもしてるんじゃないか?あ、ほら、誰かきた」

肝心のスザクは、三十分ほど前から、駅前のベンチに座って動かなかった。
ときおり、鞄の中から出した、小さな手帳のようなものをぺらりとめくる程度だ。
それからしばらくして、スザクは、駅前に視線を向け、そして、ぱあ、と、歳にしては幼い笑顔を浮かべて立ち上がる。
ゼロとルルーシュも、同じ方向に視線を向けると、見覚えのある顔に、本日何度目かの驚いた表情を顔に浮かべた。

「ユフィ!」
「まぁ、スザク、どうしたんですか、こんなところで」

スザクの待っていた人は、ゼロとルルーシュと同じようにその紫の瞳を驚いたように瞬かせる。
ピンク色の髪をふわふわとなびかせ、アッシュフォード学園の近くにある女子校の制服を着た彼女、ユーフェミアは、ゼロとルルーシュの、従妹、だった。
その彼女に、スザクは子犬のような幼い笑顔を浮かべて近づく。

「実はね、これ、ユフィに渡したくて」
「まぁ!!これ、手に入れるの大変じゃありませんでした?」

スザクがユーフェミアに渡したもの。
それは、ここに来る前に彼が二時間も並んで買っていた、某有名店で売っている一番人気のケーキ、だ。
けれど、二時間も並んだのにも関わらず、スザクはそんなことなかったよと言い、さらにはそれをユーフェミアに渡す。
明らかに。これは。

「……あの男、ユーフェミアに惚れてるな」
「か、可愛いユフィになんてことだ…!」
「ナナリーの方が可愛いけどな」

ががん、とショックを受けるルルーシュと、ほぅ、なんて面白い物を見つけたように目を細めるゼロは、そのままスザクとユーフェミアを観察する。
そしてスザクとユーフェミアは、しばらく話してから、分かれた。
が。
問題なのはその後から、だった。

これから家にでも帰るのだろうか、と、ゼロとルルーシュはスザクの後を追う。
電信柱の陰から、二人してこっそりと。
けれども、スザクも、一目を気にするようにこそりこそりと町中を歩いて行く。
そしてその先頭を歩くのは、何も知らないユーフェミア。
駅前を通り過ぎ、閑静な住宅街に入る。
そこは、ゼロとルルーシュもよく知った、ユーフェミアが今、学校に通うためにと一人で住んでいるアパート、だった。

そこに、こそこそと周りの目を確認しながら、入るスザク。
それから最後に、ユーフェミアの部屋が一階なのを良いことに、その床下に、懐中電灯をくわえながら起用にするりと入って行った。
それを少し離れた草の陰から見つめるゼロとルルーシュ。

「ぜぜぜぜぜぜぜろ」
「どうしたルルーシュ」
「もも、も、もしかして、枢木スザクは、まさか、まさ、か」
「ユーフェミアのストーカー、だな」

ユフィ、今すぐその家から引っ越せ!!!
可愛い従妹を思い、ルルーシュは顔を真っ青にさせて叫ぼうとしたところで、ゼロに口元を押さえつけられた。
だって、ばれてしまうからだ。
何って、ユーフェミアのストーカーである枢木スザクに、ゼロとルルーシュがストーカーをしていたという、事実を。


「ストーカーのストーカーになるなんて、笑い話にしかならないな」


ふがふがと叫ぶルルーシュを押さえながら、ゼロは、これからのことに頭を悩ませた。








僕は、運命を信じている。



運命の出会い。
運命の赤い糸。
運命の人。
運命。

それは、これからの僕を表し、予定し、作っていく言葉。
僕の過去も今も未来も、この運命によって成り立っている。
だってそう考えたら、ただすれ違っただけの出会いでさえも、何か意味を持ってくるのだから。
それってなんて素敵なことなんだろうって思わない?
だから僕は、運命って言葉が好きだ。

良いことが起きたなら、それはきっと運命によって決められていたことなのだろう。
そう考えると、ほら、なんだかとってもロマンチックな気がしてくる。
悪いことが起きたなら、それもきっと運命によって決められていたことなのだろう。
そう考えると、ほら、ならばしょうがないって諦めることができる。

もしも。
もしも、それでも運命のままに生きていくのが嫌だというのならば、自分で運命を切り開けばいいだけなのだから。
きっとそれすらも、運命的に決められているんだ。
運命を運命的に変えていく。

だから僕は、僕の信じる運命のために、生きていく。

ユフィの家の、床の下。
僕はユフィとの運命を信じて、こうして待っている。
いや違う。待ってるだけじゃない。
運命のために、運命的に行動しているんだ。

そっと開いた、小さな日記帳。
そこに記された、今日の日付。
今日の内容。
運命が記す言葉。

”今日はユフィと人気のお店のケーキを食べた。美味しかった。”

一緒には食べられなかったけれども、ユフィはこのケーキを食べた。
僕だって、食べれば、同じ瞬間には食べてないけど、でも、一緒に食べたことになる。
そう、運命は、自分で切り開いていける。


そう、だから僕は、誰が何と言おうと、運命を信じているんだ。



運命。


僕はこの言葉を、信じている。


そしてスザクは、ぽん、と、既に書かれた今日の日記の最後に、完了の印である、ディステニーと書かれた桃の印のスタンプを押し、その歳よりも幼い笑みを、浮かべた。




運命の果実よ、実れ。
僕は運命を、信じてる。






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