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我が崇高なる貴殿下に、紡ぐ




思えばその日、僕はとてつもなく、緊張していたような気がする。







少し前、殿下と喧嘩(なのだと殿下は仰っていた)をしたとき、仲直りの際、なんというか、その場のノリというか流れで、ある約束を僕は殿下とした。
それは、『殿下と二人のとき、もしくは学校にいるときには、お名前を呼び捨てにする』、と、いうもの。
今思えば、まさか自分がこんなことを言うとは思ってもいなかったし、まさか、殿下の名前を大声で言う、なんていうのも、するとは、思っていなかった。
むしろ、してしまった自分自身を張り倒してやりたいくらいだ、殿下に向かって呼び捨てなんて!!(殿下は喜んでくださったけれども)

さて、そんなこんなで慌しくときは流れ、ぎこちない空気が殿下と(主に)僕に流れていたけれども、それもなんとかなおり、今日は、久々に学校に登校する日、だった。

別に、学校が嫌なわけでも、ましてや殿下と一緒なのが嫌なわけでもないんだ(むしろ殿下と一緒にいられるなんて幸せすぎて、どうしようもない!)
ただ、だから、『あの約束』が、憂鬱に、させる。
そりゃ、僕だって、る、るるる、るるーしゅ(さま)、とは、言いたいけれども!
僕はあくまでも、一介の護衛であって、お守りする立場であり、殿下の従者なんだ(と言ったら、殿下には友達だ、と、でこぴんされた)
それなのに、それなのに!呼び捨てなんて!!心臓がいくつあってもたりはしない。
けれども、昨日の夜、別れ際、殿下に呼び止められてなんだろうと思い、お話を聞くと、それはもう素敵に、輝くような、笑顔で、

「明日の学校、楽しみだな、なぁ、スザク?」

と、遠まわしに、「名前、呼べよ」的なことを言われた。
……軍に入ってそれなり。殿下の護衛になって、それなり。ここまで、次の日が憂鬱になったのは、初めてかもしれない。



あのときの、殿下のお名前を叫んだ僕の力を、今、わけてほしい。



そして、(僕にとっては)運命の日が、ついにやってきた。
朝、目が覚めると、ちゅんちゅんと可愛らしいすずめが鳴き、空は雲ひとつない、青空。
テレビをつけても、残念ながら全国的に快晴で、学校が休みになる、暴風警報は、出ていなかった。
とりあえず、寝巻きから学校の制服へと着替える。
殿下によく似合う、黒の詰襟。しかもお揃いの物に(制服なんだからお揃いに決まってるけれども)
…。
……。
だだだだだだだだだめだ!!緊張する!
もうこの時点で僕の指はがたがたに震えて、ボタンが留められなかった。
ちなみに、朝ごはんも、緊張のため、ヨーグルト一個(こんなの今までの人生で初めてだ!!)
時間は、殿下のお部屋まで迎えに行くまであと、三十分ある。ちなみにお部屋までは、ここから約十五分。
さて、そろそろ行かなくちゃ、と思い、席を立ったとき、コンコン、と普段はこんな時間に誰も訪れるはずがないのに、扉がなった。
誰だろう、と思いつつ、この緊張から少しは気が紛れると考えながらでると、そこには、

「おはよう、スザク」
「で、ででででででで、ででで殿下!?」
「……朝から元気だな」

我が主、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下が、護衛もつけずにお一人で、学校の制服を身にまとい、鞄を持って、立っていらっしゃった。
普段は割りと低血圧で、朝はぼんやりしていることが多いのに、なぜか今日は、とてつもなく爽やかな笑顔を、振りまいている(いつかテレビで見た、シュナイゼル殿下にそっくりだ)
そして殿下は、僕の部屋に入り、僕の鞄を持つと、しかもその上、僕の手をひっぱって、

「さぁ、学校に行くぞ」

と、仰った。



とりあえず、僕に荷物を持たせてください、と、どこか冷静(今考えればこれも、かなり混乱しているけれど)に、僕は頭の端っこで、思った。



教室に着くと、殿下は、いつも通り、机の中に教科書を入れ、いつも通り、逃げてしまわれるのかと思いきや。
今日は、準備が終わると、僕の机の前の椅子に座り、何かを期待した目で、見上げられてこられた(ちなみに、登校中も、とてつもなくご機嫌だった)
あぁ、これはもしや、期待されている、というものなのだろうか。

「スザク」
「な、なんですか、殿下」
「ここ、学校だな」
「そ、そうですね、学校ですね」
「約束、したよな?」
「………しました、ね」

やっぱり!やっぱり!!
いつもは、無邪気ながらも、皇族ということもあるのか、どこか大人びた光のある、紫の瞳が、今は、新しい玩具を見つけたような瞳になっていらっしゃる。
どうしようか。
殿下が望まれているなら、お呼びしなくては、と、思う。
けれども、喉まできた殿下のお名前は、そこで急ブレーキをかけ、結局、音となることは、ないんだ。
まるで軍の実践演習のごとく、緊張する。

「ほら、スザク」
「え、えっと、えっと」

ああああああああ!!!!でもこんなに、期待してくださっている殿下のお気持ちを、無駄になんてすることは、できないっ!!
でも、でも!
そんな風に、僕がいろいろな物と戦っていると(ちなみに殿下は、そんな僕を見て、大変楽しそうに笑っていらっしゃった)、タイミングがいいのか悪いのか、先生が入ってきて、朝のHRが始まった。
これで危機は脱出したように思えたけれども、殿下が自分の席に戻られるときに仰った言葉で、僕は、今日の午前中の授業が身に入らないくらい、悩むはめになった。
ちなみに、その言葉とは、

「楽しみは、とっといた方がいいもんな」

だったり、する。



やっぱり、すっごく期待なされてる!!!!



そして、ときは、進みに進んでお昼休み。
僕は、殿下のお弁当(皇室お抱えシェフが腕をかけて作った、豪華三段重ね弁当、ちなみに今日のテーマは初夏)を抱えて、殿下の後ろを歩いていた。
目的の場所は、屋上。
殿下よりも、少し前に出て、扉を開けると、青い空が広がる。
だから僕たちは、いつもの場所へと座り、カシャンとフェンスに寄りかかった。
ちなみに、僕のお弁当は、やきそばパンとクリームパンとソフトアップルパイ。
飲み物は、これまたやっぱり、殿下用に、本場インドから取り寄せたダージリンの葉と、お湯の入ったポット、ミルクに砂糖を持っている。
僕のは、学生に優しい、500mmなのに百円で売っている紙パックの、イチゴ・オ・レ(お気に入り)だった。

殿下は、食が細い。
だから、いつもお弁当を見ては、こんなに食べれないと仰って、僕のお昼(イチゴジャムパンとかチョココロネとか)と交換しようと仰ってくる。
確かに、僕としては、殿下のお弁当の量は、難なく食べられるけれども、それはやっぱり、殿下に食べていただきたくて作ったものだし、なにより、まさかコンビニのパンを、殿下にお召し上がりいただくわけには、いかなかった。
それでも殿下は、食べたい、と仰るので、一口なら、と、僕のパンを、小さくわけて、もぐもぐとお食べになる。
そのときにはたいてい、貰ったらお返しをしなくてはいけないだろう、と、仰り、僕に、超特大一口サイズにわけたおかずを、わけてくださる(これがまら、やっぱり、とてつもなく美味しい)

だから今日も、いつものように、そうやってお昼の時間は過ぎていった。
食べ終わって、二人でゆっくりとジュースを飲む(なぜか僕のイチゴ・オ・レは殿下の手元にあって、殿下が飲まれているけれど)

「なぁ、スザク。いつになったら、呼んでくれるんだ、名前」
「それは、その、」
「学校、早くしないと終わるな」

お前、学校じゃないと余計、呼びづらいだろ。
ちゅるる、とストローで、イチゴ(略)を飲みながら、殿下は仰る。
確かに、確かに、僕と殿下は、学校が終わっても一緒にいて、かつ、約束は『学校、もしくは、二人きりのとき』だから、チャンスはあるけれど、殿下の仰るとおり、ここを逃したらきっと、僕は、次に学校に来るまで、言えないだろうな、と、思った。

はぁ、と、殿下のため息が聞こえる。
それで肩が揺れたのが、伝わってしまったのだろうか。
殿下は、ちょっと寂しそうに笑うと、

「まぁ、別に強制したいわけでもないしな。…楽しみは、とっておくとも、さっき言ったし」

そう言って、ぴょこりと立ち上がった。
なんてことだ、ただ、僕が恥ずかしいから、とか、緊張するから、とか、そんな理由で殿下を悲しませるなんて!
許されることはじゃない!!

「あの、殿下、」
「ほら、予鈴がなったから、行くぞ」

雲と一緒に、確かに、予鈴のチャイムの音が、流れる。
あぁ、でも、僕は今、それどころでは、なくて。
殿下は、すたすたと、歩いていってしまう。
だから、僕は、



「待って、僕も行くよ、…ルルーシュ!」




振り返った君の笑顔が、眩しかったのか。
それとも、どこまでも続く、青空が、眩しかったのか。





我が崇高なる貴殿下に、紡ぐ
あなたのためなら、どこまでも!!








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あきゅろす。
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