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おれとこいぬ



最近、犬を飼い始めた。
まだ小さくて、子犬。
くりくりとしたまん丸で、新緑のような翡翠色の瞳。
茶色の毛に包まれた身体は、子犬特有で、まだころころしていて可愛らしい。

どこからどう見ても、可愛い、としか言えない、その子犬におれは、強くなれという願いを込めて、スザク、と、名付けた。
少々、名前負けしているような気がしないでもないが、おれも、そして、スザクも気に入っているようなのでいいとした。

スザクは、それはそれはかわいい子犬だ。
飼い主のおれがいうのもなんだが、本当に可愛い。

朝、学校に行くときには、つれていってくれといわんばかりに、きゅんきゅんと鳴いて、おれの足元から離れようとしない。
普段はぴんとたてている耳を、ぺたんと垂らしている姿を見ると、このまま学校を休んでしまおうかという気分にすなる。
しかし、そんなことはできない。
だから、ふりきって学校に向かい、そして、外から自分の部屋の窓を見上げると、おれの机に乗っているのだろうスザクが、窓にぺたりと鼻先をつけて、寂しそうにこちらを眺めている。
スザクにはかわいそうだが、その姿が、ものすごく可愛らしい。

それから、放課後になって急いで部屋に戻ると、おれの足音を聞きつけていたのか、扉を開けた瞬間に転がり込むようにおれの足元に、スザクが突進してくる。
踏まないように気をつけながら、先に鞄を机に置いている間も、スザクは、かまってくれといわんばかりに、きゃんきゃんと鳴く。
そして、抱き上げてやると、千切れてしまうんじゃないかというくらいに、くるんと丸まったしっぽを振る。
そのままベッドに転がり、頭を撫でて、腹も撫でてやって、ボールも軽く転がし、遊んでやると、スザクはとても喜ぶ。
そして、まだ子犬のスザクは、おれの横で、疲れて寝てしまうのだ。

あぁ、なんて可愛いのだろう。

だが、おれは、今、このとき、とても、困っていた。
なぜなら、おれの愛する子犬、スザクが、拗ねてソファーの下からでてこないのだ。
普段は帰ってくると、足もとに弾丸のように走ってやってくるスザクが、今日は、やってこなかったのだ。
ソファーの下を見ると、いつもは天を向いた耳も、ぺたんと下がり、どことなく、寂しそうだ。
にも関わらず、出てこないスザク。



「スザク、ほら、出て来い。お前、これ、好きだろ?」




スザクが気に入っている、黒猫のぬいぐるみをちらつかせても、ぷいっと顔をそむけられてしまう。
ここ数日、遊んでやれなかったから、拗ねてしまったのだろう。
はぁ、と、溜息をつくも、やはりスザクは知らんぷり。

「…くぅん」
「ほら、お前だってそんなところにいたくないんだろ?出ておいで、スザク」

スザクは、とても、甘えたがりやだ。
だからこそ、拗ねてしまったのだろうが、それだからこそ、今も寂しくてたまらないのだろう。
さっきからずっと、きゅんきゅんと情けないい声が聞こえるのがいい証拠だ。
けれども、誰に似てしまったのか、変なところで頑固なスザクは、いつまでも出てこない。
だから、おれは、手を、ソファーの下にのばして、問答無用でスザクを抱き上げた。
驚いたのだろう、途中でスザクが、「わんっ!」と鳴いたが、腕の中に納めてしまえばこちらのものだ。

「こら、いつまでも拗ねているんじゃない。そんな風な態度をされたら、さみしいじゃないか」

ちょん、と、鼻先をつついて、まん丸の瞳を覗き込む。
すると、少し間を置いてから、スザクは、今までソファーの下で拗ねていたのが嘘のように、しっぽを振って、頬や鼻先を舐めてきた。
あげくの果てには、のばされた前足が頬にや首元に触れ、肉球特有の、ぷにぷにした感触がくすぐったくてしょうがない。

「こ、ら、舐めるな、スザク、くすぐった、い…!」
「きゃん!」

止めろと言っているのに、スザクは余計に舐めてきて。
しっぽは相変わらず、ちぎれそうなほどに振っている。
きゃんきゃんと嬉しそうに鳴く姿を見てしまうと、どうして、怒ることなんてできない。

結局、おれは、この、可愛い子犬に、弱くて、甘いのだ。
くん、と動いたスザクの鼻先に、そろそろ夕飯の時間だな、と、今更のように、思いだした。





わんわんわん!!!
おれとこいぬ



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あきゅろす。
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