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おやすみ





好きなものと嫌いなものは、とくに、なかった。
ルルーシュとナナリーは、守るべきひとたちで、愛しむひとたちで、だから、もの、ではなかった。
とくにルルーシュは、自分自身と変わらないのだから、同じなのだから、そこにいるのが当たり前で、そんなこと考えたことも、ない。
ただ、言葉にしたときに、半身はどうやって表現するべきなのかと考えれば、あいしているひと、としか、言えなかったし、でもそんな言葉では表現できない存在であるのも、確かだった。
それを、そう思っているのが、自分、ゼロ、という、ひと、なのだと理解している。
だから、いいかえれば他のものはどうでもいいし、世界にすら存在しないけれども、だからといって、それが未来永劫変わることはないのか、と、聞かれれば、そんなはずもない。
ルルーシュとナナリー、それからその他。
最近、この、自分の中の基本とも言える、世界を二分する線が一つ、増えたのを、誰か知ってるのだろうか。
あぁ、でも、結局それは、その他の中の区分がより細かくなっただけで、基本が大きく変わったわけでは、ないのだけれども。

そこまで考え、瞳を開く。
カーテンは閉まっていて、光は、ない、暗闇。
真っ暗な空間に、自分自身が溶け込んでしまう気が、した。
もぞりと寝返りをうてば、なにかにあたる。
自分と同じ、暗闇に溶け込む髪の毛、自分と同じ、年齢の割には華奢な身体。

「…るるーしゅ」

ベッドに入ったときには、ひとりだったのに、気がつくとそこには、大切な半身。
そういえば最近は、ここに帰ることも少なく、帰ってきても深夜なのが常だった。
心配、かけてしまったのだろうか、ぼんやりと、まだ眠っている頭で考える。

大好きなひと、あいしてる、ひと。

もぞもぞと動いている半身を、暗闇に慣れてきた瞳で写すと、ただ、しあわせだ、と、思った。
このしあわせさえくれれば、いいのに。
大切な半身と大切な妹が、しあわせに暮らせれば。
そのしあわせな世界に、もしも、自分がいられるのならば、それ以上の願いは、ないのに。
けれども、ささやかに見える願いも、本当はとても傲慢で汚れたものなんだと、小さく笑いをこぼした。
ああ、ルルーシュが、起きてしまう。

大切な、あいしているひとたちが、しあわせな世界をください。
他のひとは、どうなってもかまわないのです。
もしも、そこに余裕があるのなら、自分も、いっしょにいたいのです。
だから他のひとは、いりません。邪魔だから。
それだけを願います、それだけでいいのです、小さな願いなのです、叶えてくれるのならばこの翼もいりません、どうぞ檻の中にいれてください。
そのためには他は捨てましょう、壊しましょう、大きな罪をもって、だから変わりにあなたの翼をください、檻の外なんて壊してしまえばいいのです。
とても、小さいけれど大きな、美しいけれども汚れた願いだ、と、思った。

けれども、願ってしまうのだから、しょうがない。
あと何回、こうして夜を過ごすのだろう。
数えても数えても、終わりは見えてこない。
それどころか、終わりは遠ざかるばかり。
白い翼が、全部、攫っていく。

ちらり、と、視線を向ければ、半身は穏やかな眠りについている。
今は閉じられた、瞳。大好きな、菫。
その瞳に、あの翡翠は、何度映されたのだろう。
どうして、いつも、こいつばかり。
透き通る菫は、好きだった。透き通る翡翠は、嫌いだった。
純粋な黒は、好きだった。歪んだ白は、嫌いだった。
いつも、いつでも、対比の関係に位置する、あいつ、が、なによりも邪魔だと思ったし、嫌いだった、憎い、と、感じた。
半身と妹以外、どうでもいいとしか感じることのなかった、自分の心に、他の感情をもたらしたのは、感心したけれど。

誰も、争いをしたいわけじゃない。するしかないんだ。
手に入れたい世界があるから。だから、あいするひとたちと、離れるのに。
それなのに、何も考えずとも、共に存在して、笑いあえて、泣いて、受けいれてもらえる翡翠が、憎い。
いつだったか、灰色の魔女に、これが嫉妬、と、いうものだと、教えてもらった。
そうか、俺にはまだ、そんなことを感じられる心が、残っていたのか。
嫉妬、しっと。
口の中で、ゆっくりと繰り返すと、それはすとんと、落ちてきた。
ひどく、醜い、感情。
けれども、それはときに、力ともなりえる。
そう思えば、その感情とも、向き合えた。

菫の瞳に映されるのは、許せなかった(どうして瞳に映したの)
ゆっくりと撫でられている姿が、許せなかった(どうして守ろうとするの)
笑顔を向け合っているのが、許せなかった(どうしてしあわせをわかちあうの)
許せなかった(どうして)

思い出すだけでも、吐き気がする。
ルルーシュとナナリーしかいない、自分の世界を、土足で荒らされたようだった。
いらいらとする心を、無視して、寝返れば、そこには、半身。

たすけて、たすけて、るるーしゅ、ひとりにしないで

口には出せない、声が、幼い自分が、叫ぶ。
成長できない自分。
それでも、白い翼は、そんな自分から、大切な宝物を、奪うんだ。

ルルーシュは、まだ寝ている。
そんな半身の放り出された手を、自分とものと絡めて。
ゆっくりと体温を分け合う。ひとつに、なる。
大丈夫、ルルーシュは、ここに、いる。
おいていくはずが、ない。おいていかれるはずが、ない。
あぁ、でも、きっと。

「おまえはすざくが、すきなんだよな」

はなれるときには、翼を切り落としてください、瞳を隠してください、檻にいれてください、思考を、すべてを、止めて。
だって、ひとりは、耐えられない。









おやすみ
そして自分は、ひとり、に、なってしまうのでしょう





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