物語 月日は流れる。 日は経ち、月は経ち、そして、年が経つ。 何度も繰り返される時は、いつか、一つの物語となり、そして、いくつも集まり、歴史となる。 片目に紅い憎しみを、もう片目に紫の闇を宿した少年は、成長した。 幼かったころには高かった声も、ソプラノからアルトへ、そして、テノールになった。 背も伸び、無力だった少年は、力を手に入れた。 そして、変わらないものもあった。 さらさらと指通りのいい黒髪はそのまま。 片割れを愛する心もそのまま。 人々の背に寄り添う黒い影を見る力も、そのまま。 まだ、青年になりきれていない、少年。 彼は、彷徨い続ける。 いとしい片割れを探し求めて。 長い間、各地を回った少年は、慣れたように、小枝を集めて、小さな火を燈す。 そして、子どものころと変わらず、夜空を眺めた。 きらきらと瞬く空とは裏腹に、少年の住まう地上は、混迷の時期を迎えていた。 少年が幼いころに奴隷として過ごしたブリタニアは、さらに奴隷制度を強め、しかし、周辺諸国の介入を許さないように砦を作り続けている。 中華連邦はそんなブリタニアに攻められ、その土地の半分以上を焼け野原にした。 残る日本も、おそらく、近いうちに攻め入ってくるであろうブリタニアのために、戦力として奴隷兵を多く設けているという。 小さなころに、母が話してくれた神話によると、神々は、この美しい夜空に住んで、この荒れた地を見下ろしているという。 ならば、神というのもは、なんて薄情なのだろうと、少年は、ぼんやりと考えた。 そっと、子どものころよりも長くなった手を天にかざすも、いとしい片割れが欲しがった月には、今だ、届きそうになかった。 同じころ、紫紺の瞳も、夜空を見上げていた。 夜空をそのまま詰め込んだ紫紺には、幼い頃には希望に満ち溢れていたものの、今では、悲哀に満ちている。 成長した少年は、守護者に言われたとおりに、世界を愛し、強く生きた。 けれども、いとしい片割れに会えない寂しさは、瞳に悲哀をため込ませる。 笑みを浮かべてもどこか遠くを見つめる彼は、毎晩のように、夜空を見上げた。 そして、窓から身を乗り出して、月に手を伸ばす。 幼いころに彼が欲しがった月を、片割れは、一緒に手を伸ばし、取ろうとして、そして、自分に与えようとした。 今ではきっと、片割れの姿も、少年の記憶とは変わっているのだろう。 双子なのだから、鏡を見れば、成長した片割れの姿は成長できる。 けれども。 両目とも紫紺の少年は、紅と紫のオッドアイを真似ることはできない。 平和を常とする、アッシュフォードの水面に守れながら、少年は、いとしい片割れを思った。 いつでも守ってくれた片割れ。 せめて、彼のような力が、守れるような力があれば。 アッシュフォードをとりまく、近隣諸国、ブリタニア、中華連邦、日本の情勢は思わしくない。 いつ、この暖かな地にその矛先が向くかがわからないのだ。 だから、せめて、片割れのように、守る力が、自分にもあれば。 幼かった少年は、成長し、そして、守る力を、欲する。 けれども、やはり、彼らが一番に求めるものは、互いのぬくもりなのだ。 双子は覚えていた。 抱き締めあった時のぬくもりを。 互いの鼓動を。 もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。 けれども、双子は、信じていた。 また会えると。 なぜなら、さよならを、まだ、言っていないから。 空には、双子の星座が輝く。 ずっと一緒にいようと約束を交わした。 けれど、別れの約束はしていない。 双子は、手を伸ばし続ける。 双子は、問いかけ続ける。 (こんな世界、いらない。ルルーシュに優しくない世界なら、壊してしまえばいい、こんな醜い世界、壊してしまえば) 同じ魂をわけた双子は、けれども、違う記憶を心に刻みつけて、世界の手の中で、Moiraの手の中で転がり続ける。 (こんな世界、いらない。ゼロに優しくない世界なんて、でも、だからこそ、ゼロを守るために、この醜い世界でさえも、守れれば) 剣を取った少年の、片割れは、果たして楯を選ぶのか。 そんなことは、誰にもわからないけれど。 けれども、彼らは同じことを願い続ける。 そして今日も、眠り続ける。 物語は、ゆっくりと、けれども、確実に、終焉へ向かっていた。 巡り巡ったその先で (あぁ、君もこの空を見ているに違いない)(だって、今も君を傍に感じてるんだから) [*前へ][次へ#] |