世界で一番優しい嘘つきの話。 月の光が、窓から差し込み、血濡れた剣に縋るように、小さな子供のように、泣き続ける少年の姿を照らす。 そんな少年の背に、もたれかかるように、月光に混ざって、ミルク色の光が差し込む。 同じ名前を呼び続ける少年に、光は、手を差し延べることが、抱きしめてあげることが、できない。 ただ、傍にいることしかできない。 背中合わせに座る少年と光の時間は、ただ、流れる。 光は、涙を流す少年に、願う。 自分の事を、忘れないでと。 けれども、思い出して、こうして涙することは、しなくていい。 本音を言えば、たまにだけ、思い出して欲しいけれど、嘘つきな光は、その本音は願わない。 少しずつ、小さくなる泣き声に、安心するように、光は、小さく揺れる。 今は、辛いかもしれない。 これからさき、自分というものを否定され続けるのは辛いだろう。 存在しているのに、無い物として扱われるのは、辛いはずだ。 でも、光は、嘘つきで、いじわるだから、願うのだ。 少年がまた、微笑えるように、と。 (傍に、いるから) 朝の光に抱き込まれ、泣き腫らしたまま眠った少年の表情が、幼い笑みを、浮かべた。 [*前へ][次へ#] |