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To xxx!!



息をはくと、そろそろ白く染まるようになってきた。
ずり落ちそうになるマフラーを、首に巻き直し、黒いアッシュフォードの男子用制服を身にまとって足早に歩く。
機嫌よく街並みを歩く姿は、どこまでも幸せそうな顔をした、枢木スザク、だった。




街は明るい。
今の季節は、赤と緑に染まっていて、イルミネーションで夜は星にも負けないくらいに輝く。
あぁ、なんて素敵な季節!やっぱり僕は冬が大好きだ!!
夏生まれのスザクは、そんなことを思いながら、そのうちスキップでもし始めるんじゃないかと思うくらいの軽やかさで歩いていた。
ハロウィーンが終わり、けれどもまだクリスマスには少し早いこの時期。
きょろきょろとスザクはあたりを見回して、そしてさらに嬉しそうに笑った。
普段なら、一人で訪れることも少ないショッピングモール。
以前までは、訪れること自体も少なかった。だって、必要なものといえば、軍の方で支給されるし、訪れてもこれといって欲しいものもなかったから。
でも、今は違う。
学校に通えることになった。友達もできた。普通の高校生のように、放課後に遊びに行くということは、ほとんどなかったけれども、それでも休日に遊びに誘われるようにもなった。
そして、なにより、

「ルルーシュ、何がよろこぶかなー」

大切な、大切な人にも、再び会えた。
七年前に別れてしまった、友だち。そして、ついこの間、再会した人。
まさかその後に、こうして同じ学校に通えるなんて思ってもいなかった。
それから、まさか、まさか、こいびと、に、なれるなんて!

そこまで考えて、スザクは、くふふ、と小さく笑いを零した。
一人笑っている姿は、他人が見たらそれほど怪しいものはないけれども、こんなに人がいるのなら、きっと大丈夫。木を隠すには森、人を隠すには人ごみ!
よくわからない前向きな思考のスザクには、それほど問題ではないようだった。
ほんのりと頬を染めて相手を考えてる姿は、まさに恋する乙女。男だけれども、乙女なのだ。恋する。

時々もらえる休暇には、ルルーシュの部屋で二人、ゆっくりと過ごすことの方が多い。
けれども、偶に二人で出掛けたりもする。例えば、このショッピングモールとか。
通り過ぎたクレープ屋を視界に入れて、ストロベリークレープとチョコレートクレープを半分ずつにして食べた記憶が、かすめる。
あのときのルルーシュ、照れてたけど、うん、それがかわいい!
どこまでもお花畑。咲き誇るピンクの花々。今が冬だろうが、スザクの頭はルルーシュと所謂こいびと、に、なってから日本の四季を完全無視して、万年春だった。

そんな、スザクの大切な大切な、たいせつ、な、ルルーシュの誕生日は十二月五日。
付き合い始めて一ヶ月と二週間、それから三日。
クリスマスの前にやってくる、誕生日。
この誕生日をどうやって過ごすかによって、ルルーシュからのクリスマスへと期待も変わる。
いわば、その日は、戦いなのだ。スザクにとって。
そしてどうか、どうかうまくいって、クリスマスには、

ルルーシュとキスができますように。

スザクは切実にそう考えていた。
大切すぎて、触れられない。この間の一ヶ月記念日で、ようやく手を繋ぐことができた。
もうこうなったら、いっそ交換日記をつけようか。リヴァルに真剣にそうやって相談して、彼が椅子から真横に落ちたのは言うまでも無い。
どこまでも、むしろ地球に、この環境に、というか周りに有害なんじゃないかと思われている、初々しいくせにバカップルな二人は、どこまでも奥手だった。
プライドも高い上に恋愛とかには疎いルルーシュと、僕たち両思いだね!え、こいびとっていうの?なスザク。
手を繋いだだけで記念日を作りそうな勢いの二人は、恋愛関係にいたってだけ、中学生レベルだった。中学生に申し訳ないくらい、ちょう純粋、だった。
そんなスザクが、ようやく、キスしたいんだけどどうしようと、リヴァルを始め生徒会のメンバーに聞いたところ、お前らあれだけいちゃついといてまだキスもしてなかったのか!と突っ込まれた日はそんなに過去の話でない。
クリスマスツリーにまるで短冊のように「ルルーシュとキスがしたいです」と書こうかと思うくらいに悩んでいたスザクには、どうして突っ込まれたのかがわからなかったが。
スザクの中では、一ヶ月目で手を繋ぎ、二ヶ月目にキスだったのをこうして早めようとしているのだから、むしと手が早いと思っていたくらいなのだから。

話がずれたが、ようは、スザクは今日、このショッピングモールへルルーシュへの誕生日プレゼントを探しにきたのだった。

いろいろなフロアーを見てまわる。
あれがいいかな。これがいいかな。
ショーケースを見ながら、くるくるとまわるようにスザクは見て回った。
けれども、見ても、ルルーシュが欲しがるものが見つからない。

「あ、これ。、ルルーシュが前に欲しがってた…って、違う、ナナリーに買ってあげようって言ってたやつだ」

例えば、ルルーシュが欲しいと言った物をみつけても、それは、ルルーシュがナナリーにあげたいもので、ルルーシュ自身が欲しい物ではない。
ルルーシュは、やたらと物が欲しいと言う訳でもないし、だからといって、何かを渡しても無感動なわけではなくて、喜んでくれる。
確かに僕も、ルルーシュと一緒にいるだけでなにもいらないけれども、誕生日に何もないっていうのもなぁ。
スザクは幸せな悩みに、うーんと首を傾げて、もう一度、フロアを見渡し、歩いた。
そして、目に入る、コーナー。

「………でもまだこれは早いよねー……」

目に留まったのは、シンプルな銀の指輪。
ペアリングらしく、リングケースには指輪が二つ収まっている。
見かけは飾りも無いデザインだけれども、指輪の内側に宝石を詰め込み、メッセージを入れられるタイプらしい。
これくらいならルルーシュもつけてくれそうだし、内側に、自分たちだけが知っている飾り、というのもなんだか素敵かもしれない。
あぁ、どうしよう。これにしようか、でも。

「指輪はプロポーズだしなぁ」

指輪イコール結婚と安易に結びつけるスザクには、まだ早い代物だった。非常に残念なことに。
けれども、スザクのなかで、おそろい、というものになんとなく決まったらしい。
おそろいイコール両想い。これもまた非常に分かりやすい恋の方程式だった。
二人仲良くおそろいのものを持つ姿を想像しては、やはりほんのりと頬を染める乙女スザク。男だけれども以下省略。

結局、スザクは、

「ペンダントにしようか、チョーカーにしようか、腕輪にしようか、ピアスにしようか、それともやっぱり覚悟を決めて指輪にしようか」

いくつもある物の中から選んだものの、それすらも多すぎて困っていた。
お互いにつけている姿を想像しては頬を染める。
幸せすぎる悩み。

「よし、決めた…これにしよう」


ちょんと、ラッピングされたそれを手渡されたスザクは、今度は、渡すときのことを考え始めて、悩み、頬を染め始めた。
今は冬だけれども、スザクはいつでも春爛漫だった。




そして、時は流れて十二月五日。





放課後に生徒会のメンバーに祝われ、そしてその後に今度はナナリーと三人で祝い、最後に二人きりでルルーシュを祝うスザク。
の、はずが、なぜか半泣きで、生徒会室でも、クラブハウスのダイニングでも、ましてやルルーシュの私室でもなく、軍にあるランスロットの中にいた。

「ひどい、ひどいよ、神様!!!」

うわーん、と、声が響く。
ランスロットだけでなく、開かれたコックピットに響いた声は、そのまま外にも響いた。

「どうしたんでしょう、スザクくん」
「あはは、なーんかねー、今日は噂の恋人くんのたんじょーびらしーよー?」
「それは…スザクくんも可哀想に…そんな日に実験が入るだなんて。……頑張って、スザクくん、あともう少しだから!」
「これで今日が終わっちゃったらどうするんだろーねー」

あははははははははは、と、いつでも楽しそうな上司の声が聞こえる。
スザクは、半泣きのまま、笑い事じゃないですよ!と叫んだ。というか、半泣きどころか全泣きだ。

あぁ、せっかく、せっかく、プレゼントも用意したのに!
ルルーシュの誕生日、すごく楽しみにしてたのに!
ルルーシュも、楽しみにしてるって、言ってくれてたのに!!
なのに、なのに、なのに!
ちらりと日付を確認すれば、十二月五日二十三時四十分。

間に合わない。

頭の中で、思った。
今朝、さぁ、学校に行くぞと思ったそのとき、急に呼び出されればいきなりの実験。
学校に連絡することもできず、ましてルルーシュに連絡なんてできずに。
誕生日に会えない上に、なんの連絡もなくドタキャン。
あぁ、さよなら僕のクリスマス。
軍の制服のポケットに、悔しくて悲しくて最後の抵抗というようにいれたプレゼントが、余計に罪悪感を募らせる。

きっと、ルルーシュは、明日会って謝っても、気にしてないからって言う。
優しいから、今回はしょうがない、また来年頼むって言う。
けれども僕は、今日、君に会って抱きしめて、おめでとうと、言いたかったのに。

ぎゅっと唇をかみ締めるのと、同時に、外から声がかけられた。

「スザクくん、今日はここまでよ。お疲れ様」

それを合図に、コックピットから飛び出る。
ちらりと目にした時計は、二十三時五十分。

着替えてる暇なんて、ない。

ルルーシュは、軍が好きではないから私服、せめて学校の制服に着替えて会いたかった。
でも、そんなことをしていたら、今日が終わってしまう。
急いで走って、一時的に置かれている大学の施設から飛び出して、正面のアッシュフォードへと駆け込む。
走って、走って、走って。
クラブハウスまでくれば、もう生徒会室から光がこぼれていることもなく、ダイニングも暗く、けれども、ルルーシュの私室だけ、ほんのりと光がともっていた。

「まだ、起きてる!」

ルルーシュに渡されていた鍵を使い、扉を開けて、きっともう寝ているであろうナナリーを起こさないように、静かに、でも、急いで走る。
階段をのぼり、扉の前へ。
そのまま飛び込みそうになり、一瞬躊躇うも、やっぱり、飛び込む。
もしかしたら、ベッドサイドの電気だけつけてたのかもしれない。
それでもう、寝てるかもしれない。
せっかく寝てるのを起こして、しかもこんなに遅くに、すごく、迷惑、かも、しれない。
けれども、どうしても、どうしても、この日に会いたかった。
まだ、新しい日付になっていないことを心の中で祈り、扉を、開ける。


「ごめん、ルルーシュ!遅くなって!!」


ばたん、と音をたてて扉を開くと、ちょうど目の前の机の前に立っていたルルーシュが、驚いたように振りかえる。
軽く目を見開き、ぱちぱちと瞬きをすると、スザク、と、名前を小さく呟かれ、そして小さく笑ったのが目に入った。

「まさかこんな時間にくるなんてな。おれが寝ていたらどうするつもりだったんだ?」
「えっと…でも、どうしても君に会いたくて」

そう言えば、まだ軍の制服のままだった姿を見られ、ぷっと笑われた。
どことなく、恥ずかしい。

「そのままの格好できたのか?どれだけ急いでたんだ」
「だって!じゃないと君の誕生日が過ぎちゃうだろ…時間!!!」

スザクは思い出したようにきょろきょろと辺りを見回す。
そして、目についた時計を見れば、零時七分。
あぁ、間に合わなかった。
どうしても、どうしても今日、いいや、昨日のうちに会って、おめでとうと言って、プレゼントを渡したかった。
クリスマスが、とか、いろいろあったけれども、本当は、大切な人が生まれてきてくれたその日に、一緒にいたいと思う気持ちが一番強かった。

「…、ごめん、ルルーシュ…誕生日…」
「そんなに落ち込むなよ。来てくれたのには変わらない」
「でも……」

一緒にいると約束したのに、いられなかった誕生日。
もしかしたら、一番楽しみにしていたのは、自分だったのかもしれない。
そう思いながら、スザクは、視線を伏せる。

そうすると、ルルーシュから、はぁ、と、ため息が聞こえてきた。
なんだかもう、だめだ。せっかくの、こいびと、の、誕生日に祝ってやることもできなければ、遅れた上にため息までつかせるなんて。
きゅっと手を握る。
そうしていると、気配でルルーシュが離れたのを察知した。
いっそ、泣きたくなってきた。むしろ、こんな大事な日に実験を入れてきた眼鏡の某上司をランスロットで踏み潰したいくらいだ。
そんなことを考えていると、ルルーシュが自分を呼ぶ。
顔を上げれば、いったん離れたルルーシュが、再び自分の前に立つ。
手には、止まった、時計。
デジタルではない、アナログの、昨日から七分過ぎてしまった、時計。
それをもったらルルーシュは、時計から電池を取り出す。
何をするのだろう。
スザクは小さく首を傾げた。

「…ルルーシュ、なにしてるの?」
「いいから黙ってみてろ。いいか、この針を、こうする」

ルルーシュの細く長い指が、時計の針を動かす。
過去へと、動かす。
示す時間は、零時の、五分前。

「いいか、この部屋はまだ、五日だ。まだ日付は変わってない」

時の止まった時計が示す時間。
十二月五日二十三時五十五分。
この部屋だけにかかっている、魔法。

よく見れば、この部屋に置かれているデジタルの時計は伏せられ、時が示されているのは、ルルーシュの持つ時計しかない。

「何か、言うことがあるんじゃないのか?」

カタン、と、時計をサイドボードに置き、ルルーシュは向き直る。
呆れた様に笑うその顔が、とても、いとおしくて、だから。

手を伸ばして、抱きしめる。
ポケットの中のプレゼントだけを持って、軍の制服のまま、走ってきたから髪のいろんな方向に跳ねているけれども。


この言葉を言ったら、プレゼントを渡そう。
そして、二人で、こっそり、つけるんだ。二人だけが知ってる、二人だけの、それを。


あぁ、クリスマスまで、もう、待てない。









Happy birthday to Lelouch!!
君に最高祝福を!!!










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