●あなたの背中はこんなにも

雪子の背中は、こんなにも眩しかったのか。

そんなことに気づき、意識したのは彼女と出会ってだいぶ経ってからだった。

そりゃあ元々綺麗で眩しいのは知ってる。けど、そういう外見的な意味じゃなくて、内面的な意味でも彼女は変わった。

ただ目の前のことを淡々と片付ける俺なんかより、きっと成長している。

―多分、家のこととか夢とか、すっきりしたからだよな―

夢に向かい、趣味を見つけ…残念なことに昔の雪子は知らないけど、千枝いわく楽しそうだとのこと。(そんな話をしながら散々腕で突つかれたけど)

「どうしたの?」

「ん?」

今いる公園の自販機で買ったのだろう、気のきいた温かなコーヒーを差し出してくれた雪子に、ありがとう、と言いながら受け取った。

おいで、と手招きすると彼女はちょっと恥ずかしそうに腰を降ろした。付き合う前は全然恥ずかしそうじゃなかったのにこの変化は可愛いなと素直に思う。

「雪子のことを考えてた」

「私のこと?」

「眩しいな、て」

「眩しいって、どういうこと?」

首を傾げる雪子に俺は笑いかける。すると彼女はぽっと頬を染めてうつ向いてしまった。

そんな顔を、もう少し見ていたくて、黙って眺めていると

「いただ!」

ぎゅうと肘をつねられる。
容赦がないもんだからこれは痛くて痛くて…、思わず悲鳴をあげた俺に雪子は頬を膨らませる。

「恥ずかしいからあんまり、見ないで」

はあ、と残念だと俺はため息を吐くと、雪子の黒く深い瞳を覗き込み一言告げた。

「生き生きしてる雪子が眩しくて可愛いって考えてたりしてた」

「へ?あ…え…?」

白い肌を真っ赤に染めてしまう雪子の変わらない純情さに、いつもいつも俺は胸を鷲掴まれる程の喜びを覚えてしまう。

―…やば、俺の顔もそろそろ赤くなるんじゃ…―

そろそろ顔を逸らそう、と思った時。胸に雪子が飛び込んできた。

「…ほんと、口、上手だよね。涼しい顔してズルい」

柔らかさと温かさ、髪からふわりと薫る上品なシャンプーの香り。

「私にとっては、貴方が眩しいよ」

蚊のなくような、でも優しい声で囁く雪子がこれまた可愛くて。

幸せを噛み締めつつ、俺は無言で彼女を腕で包み込んだ。



END
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