--気の探究注釈抄-- ◯漢方薬の世界 何を漢方薬と呼ぶのか? (漢方薬の世界) ◆民間薬、生薬とは 漢方薬は主に自然の薬草を使います(虫や動物の一部を使うこともある)。 この「自然の薬草」という大きな特徴が多くの支持を集めていることはいうまでもないのですが、薬草を使う薬のすべてを漢方薬と呼ぶわけではありません。 日本では、薬草を利用する薬に「民間薬」「生薬」「漢方薬」という3種の使い分けがあります。 民間薬というのは、「何が効くのか」という薬理のメカニズムや、「どうして効くのか」という治療のメカニズムはわからなくても、経験に基づいて「〜には〜がいいよ」という形で昔から代々伝えられている薬草や、それをベースにした薬のことを指します。 民間薬は、学問的な根拠がなく用量も比較的少ないので、一般的には治療薬というよりも病気の予防や健康維持のために、長期間に少しずつ用いることが多いようです。 しかし、これを飲んでいるから安心だと油断して、ほかで不摂生な生活をしてしまえば、かえって病気になりやすくなります。 また、まれに劇的な効果が現れることもありますが、最初からそういう効果を過度に期待して服用すべきではありません。 生薬は、薬草を現代医学的に分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬をいいます。 医薬品のコマーシャルなどで、「生薬配合」とか「生薬由来成分」という言葉をよく耳にすることがあるでしょう。 生薬のほとんどは『日本薬局方』に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方することもあります。 ◆民間薬や生薬と漢方薬との違い では漢方薬とは、民間薬や生薬とどこがどう違うのでしょうか。 まず、民間薬とは医学的な根拠の有無という点でまったく違います。 一方の生薬との違いは、現代医学と東洋医学の違いがそのまま当てはまると言っていいかもしれません。 生薬では化学的な成分の分析が不可欠であるのに対して、漢方薬は成分にはあまりこだわりません。 というのも、漢方薬は色や形、臭いや味などを五行理論などに基づいて分類し、人体の東洋医学的な乱れに対応できるように処方したものだからです。 ただし、民間薬、生薬、漢方薬とも、人に何らかの効果があるという点は共通しているので、同じ薬草が3つのいずれにもラインアップされる場合があります。 たとえば、日本の民間薬としてよく知られているドクダミは、生薬では「ジュウヤク」、漢方薬では「ギョセイソウ」という名で使われています。 しかし、民間薬で使われるときと比較すると、漢方薬での濃度は大変に濃くなり、薬効も大きくなります。 また、生薬としてジュウヤクが単体で使われることはあっても、漢方薬のギョセイソウは必ずほかの薬草と組み合わせて使われます。 現代医学は「扶正」が弱い 「漢方薬は長く飲まなければ効かない」―-この考えが間違いであることはすでに説明しました。 こういう見方が定着した背景には、現代医学が抗生物質の発見などで、感染症や急性症状の治療に飛躍的な効果をあげるようになったことがあります。 いきおい漢方薬は慢性的な病気にしか使われなくなり、長く使わないとだめというイメージができてしまったのです。 このことを逆に考えると、現代医学では慢性疾患に対して根本治療をしたり体質の強化をはかるといった、東洋医学でいう「扶正」を行うための技術開発が遅れていることに気がつきます。 たとえば、病後の回復期などに医師がよく「あとは栄養をしっかりつけて」などといいます。 しかし、何をどう食べるかという指示は出しません。 その点、東洋医学では「薬食同源」という漢方薬と同じ考え方をもとに食物の薬効も区分していますから、不足している正気の違いに応じて「医学的」な食養生の指示ができます。 現代医学における輸血とかホルモン注射などを「補法」か「瀉法」かに分ければ「補」に属するので、扶正の技術がまったくないわけではありません。 しかし、慢性の症状をじっくり根気よく調整していくというような技術は弱いのです。 また、症状が顕在化していない状態では輸血やホルモン注射をすることはありませんから、「治未病」の技術も遅れています。 ◆究極の「瀉法」は手術にゆずる 現代医学の方がすぐれている分野では、やはり感染症に対する治療を第一にあげるべきでしょう。 細菌などによる感染症を治す場合に、抗生物質を使うよりも早く治せる方法は東洋医学にはありません。 わかりやすい東洋医学と現代医学との違いに「手術をするか、しないか」がありますが、東洋医学の立場からいえば、現代医学の手術こそ最大の「瀉法」なのです。 [*前へ][次へ#] [戻る] |