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怯えながら牙をむく仔犬‖現代家三


錘によって姫が眠りにつくと、城内も、樹も草も森の動物たちも、ありとあらゆるものが100年の眠りに就いてしまいました。

そして、棘が全てを覆い隠してしまいました。






怯えながら牙をむく仔犬






三成は、人前で滅多に眠ることはしない。

警戒心云々の話ではなくて、そもそも睡眠自体多くとらないのだ。

だから、偶々ソファーで転た寝をしている三成に少しばかり驚いた。

「三成?」

思ったよりも深い眠りらしく、読み掛けの本が手から滑り落ちていた。

(珍しい事も有るなぁ。)

家康は制服を片付けながらも、三成から目を離せないでいた。

僅かに上下する腹部に、艶やかな白銀の髪。

音を立てぬように衣服を洗濯カゴに入れ、自分用のカップにミルクコーヒーを作り、再び三成の眠るソファーの下へと座り込んだ。

「……」

家康はなんとなく床に落ちた本を拾い上げ、パラパラとページを捲った。

(挿絵の意味も解らん。)

英語と記号の羅列された栞の挟まっていない本は、一体どの辺りまで読まれたのだろうか。

本を閉じてテレビを点けようとして、止めた。

(起きるか)

何故起きないのか不思議だ、何故起きないのだ何故。

時間が止まって仕舞ったのか止まって仕舞ったのならば其れでいい、もう何も望まない。

(世界にふたりきり)

其れも悪くない。みんなしね。

血色の悪い頬にかかった髪を指先でそっと払うと、睫毛に触れたのかゆっくりと目を開いた。

「───おう、良く寝てたな」

家康は何事も無かったかの様に笑い、未だ焦点の定まらない三成の不機嫌そうに顰められた眉間を、ぐいっ、と広げた。

「…何故起こさなかった。」

手はあっさり叩き落とされ、三成はもそもそと身体を起こした。

「疲れてると思ったから…まずかったか」

三成は俯いて、いや、と呟いた。

「?」

ビンタの一つでも喰らうかと思ったが、意外にも俯いたまま動かない。

「……───まさか、三成…寝顔見られて恥ずかしい、……とかじゃないよな」

俯いたまま三成の耳に、ゆっくりと赤みがさした。

「え、其れは反則…っ」

「…く、縊れ死ね!」





来るもの全てを拒んで傷つけた棘姫。

姫の清廉な頬に触れることが出来るのは、同じ痛みを知っている者だけなのでした。



end

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あきゅろす。
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