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真っ白に汚れた仔猫‖現代家三


シンデレラは片方の硝子の靴を置いてきてしまいました。





真っ白に汚れた仔猫






瑠璃色の空が茜色に浸食されはじめた頃、下駄箱を彷徨く三成を見掛けて、家康は其処へ駆けた。

「三成、帰るのか?」

華奢な背中に軽く触れると何時ものようにうんざりとした目で見られた。

(うん、慣れてる)

少しだけへこんでいると、三成はそのつもりだったんだが、と呟いた。

「靴を───無くした。」

「?」

「有り体に言えば、隠された、か。」

大して気にした様子もなくそう言った。

「…こういう事、頻繁にあるのか?」

「いや、そう云う事ではないが。」

「そうか。良かった。…取り敢えず探そう、三成。」

「あぁ。」

やや肌寒い空気の中、鼻腔に張り付くような金木犀の香りが漂う。

「そうだなー、人気の無いところを探してみるかぁ。」

さりさりと腐葉土の葉に足が沈み、三成は芙蓉(ふよう)の眥(まなじり)を僅かに細めた。

「すっかり秋だなぁ…ところで、無いのは両方なのか?」

「いや、片方だけだった。」

「片方だけ?半分だけ…灰被り猫みたいだな。」

ははは、と家康は笑いながら側溝を覗いたりした。

「灰被り、だと?」

ぴくりと反応を示す三成に、童話だ、と苦笑した。

昔から揶揄われる事の多かった灰銀の髪を気にしているのだ。

「…いや、三成は灰被り姫かなぁ。可愛いし。」

「死ね。」

「三成ぃー…」

もう少し躊躇って言ってくれ、と唇を尖らせた。

「…無いな」

探す気もなさそうに、していた三成だったが一応家康の姿を追っていたのかそう呟いた。

「ああ、そうだな。もう少し奥を探してみよう。」

「…家康、何故無関係のお前が私の靴をそんなに探すんだ?」

「何故って…三成、今更じゃないか?」

呆れたように言った家康に、三成は眉を顰めた。

「ワシは何度も言って居るだろう?お前が好きだって。」

こういうと三成が黙って仕舞うのを知っているので、家康は排気管の隙間を覗き込んだ。

そして、「あ」と声を漏らした。

「───有ったぞ、三成」

排気管の隙間に手を突っ込んで、ご丁寧にビニール袋に包まれた靴を引っ張り出した。

「…すまない。」

「はは、気にするな。こんなとこに隠してあったら普通見付からん。」

「あぁ、そうだな。よく見つけてくれた。」

「ま、良かったじゃないか。こんなことは気にせず帰ろう、三成。」




(だって隠したのワシだし)




「三成、明日暇か?」

「?」

「勉強、教えて欲しいんだ。理数系だったろ?」

「明日、か。まぁ、良いだろう。」

生真面目な三成な事だから探し当てた礼にと思っているのだろう。

「良かった。それじゃ、図書館じゃ気が散るからワシん家で教えてくれないか?」

解った、と頷いた三成に、家康は表情を緩ませた。







王子様は打算的な人間が嫌いでした。

何故なら、王子様もまた、打算で生きてきたからです。

そして、王子様は打算的なシンデレラより、罠にかかってくれる灰で真っ白に汚れた仔猫を選んだのでした。




end








グリム童話の灰被り姫は、王子によって階段に塗られたピッチにより靴を脱がされた

バジーレによる灰被り猫は従者に追われて靴を落とす


権現は文系です

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