はなのゆめ‖こんな夢を見ました。遺す方と遺される方は、どちらが辛いのか
はなのゆめ
誰かが泣いて居た。
小生はゆっくりと眼を開けた。
小生は、縁側の見える庭に立って居た。
縁側には一人、誰かが居た。
嗚呼、彼の人が泣いて居る。
掌で顔を覆い、さめざめと泣いて居る。
御願い、泣かないで呉れ。
小生は困って仕舞う。
彼の人には笑って居て欲しい。
小生は彼の人に───僅かな想いを寄せて居る。
如何したのかと問おうと手を伸ばしかけると
「何故、 は先に逝って仕舞った?」
小生が先に逝って───?
───嗚呼小生は、
死んだのか
伸ばしかけた手を下ろす。
「何故?こんなにも待って居たのに」
聞きたくない、御願いだから其れ以上言わないで呉れ
「如何してなのだろう?何故吾は生きて居るの?───何故?」
涙さえ流せずに、小生は胸を押さえた。
───彼の人を遺した筈の小生が、
こんなにも辛いなんて。
彼の人を苦しめるのは何よりも厭なのに。
小生がこんなにも彼の人を苦しめて仕舞うなんて。
此処に居るのに触れられない。
如何仕様も無い悔しさに、唇を噛んで俯く。
足下には、柔らかな草と
黄色と桃色の花。
小生は嗚呼と顔を上げた。
───此の花に、生まれ変わったのだな。
因果な事だ。
側に生まれても、触れる事さえ出来ないなんて。
小生は有る筈の無い顔の筋肉を使って、苦笑した。
花の命は短い。
次の日には潰える命やも知れん。
然し───だからこそ
もう一度、逢える
如何に時間が掛かろうと、小生、何時か必ず人間に生まれましょう。
何れだけ時間が掛かっても、
もう一度、彼の人の側に生まれても良いですか?
小生は今、短くも儚い、はなのゆめを視て居ます。
もう、彼の人の涙など見たくない。
彼の人の涙が地に堕ちて、小生の元へ零れたら、
もう少し、はなのゆめを視るでしょう。
小生はゆっくりと眼を閉じて、
記憶の中の褪せぬ彼の人の笑顔と共に、
淡いはなのゆめに沈んだ。
end
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