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面倒臭がりの恋‖ひとつになりたい*

私はあの子が好きだった。

手も繋ぎたかった、キスも、セックスもしたかった。

───只少し問題だったのが、私が女で、あの子も女だったという事。



「ひとつになりたい」



官能小説の使い古されたセリフが私の口をついて出た。

(莫迦みたい)

私にも、あの子にも、互いを穿つ性器は無い。

仕方ない。

私は、女であることに疑問は、無い。

其れでも、あの子が好きだった。

好きだからセックスしたいと思うのは男だけで、女はそうではない。


だから、いい。


(頭では、解ってるんだけどね)

私は、私で、あの子はあの子。

だから、考えてることなんて解らないし、全部を伝えられる訳じゃない。

其れが出来たら、人間から片思いの概念は消える。

でも如何して人間は言葉を持つことが出来たのだろう。

そんなものなければ、よかったのに。

本能的な会話だけなら、獣のように互いに貪り合っても誰も咎めたりはしないだろうし、いろんな面でもっと単純に成れたはずだ。

莫迦みたい、と私は唇で言葉を象った。

いちいち全部言葉にしなくちゃ伝わらなくて、伝わらなくちゃ、好きで居ることが苦しいなんて。

(恋愛感情っていうもんは、なんて───)

嗚呼、人間はもっと簡単にひとつになれたら良かったのに。

例えば、液体みたいに。

冷水にお湯を注いでも、何時か温くなって一緒になってしまう。

其れは冷水とお湯から「水」になるのだ。

何時かひとつに成れると解っているなら、私たちはそんなに焦って一つに成ろうとはしないだろう。

(夢物語か)

手を繋いで、そのまま。

どろどろと二人の身体は溶けて行って。

ゆっくりゆっくり混ざり合う。

最後に言葉で「好きだよ」と言って。

溶けてく視界にあの子の恥ずかしそうな笑顔を焼き付ける。

嗚呼でも脳味噌も溶けてしまうのか。

無くしてしまうには少し惜しい気がした。



───まぁいい。



其れが最後に記憶される事柄なら私はそれでいい。

それ以上、上書きされる記憶はなくても、いい。



「───誰と?」



そこで、私の思考は打ち切られた。

先ほどの私の言葉に反応したのか、隣に寝転がっていた彼女の柔らかい掌が私の頬に触れた。

詰まらない事を聞かれたな、と私はぼんやりと思った。

「うん?別に…」

彼女は、残念ながら「あの子」ではない。

彼女があの子なら、なんて考えるのは彼女に失礼であるが、つい、考えてしまう。

「また、難しいことを考えてるの」

私は彼女のくすくす笑いに身体を起こした。

なんだか頭が酷く重い。

ぐわんぐわんとしている。

「別に、難しくない」

「ふぅん?じゃあ何考えてたの」

そういって、彼女も身体を起こす。

重力に従う乳房のラインが美しい。

「ん、…人間が液体みたいだったら簡単だったんだろうなぁ、と」

そういうと、ははぁ、と彼女は少し嘲る様に笑った。

「其れって」

あの子のことでしょう、と彼女は笑った。

「さぁね」

「厭ね。脳味噌の中にあの子が居るんじゃ、殺すしかない。」

どっちを、とは言わなかったが、確実に殺されるのは私だろう。

脳味噌を取り出されて彼女の夕飯になってしまいそうだ。

「物騒なことを言わないでくれ。それにあの子は関係ない。」

うそつき、と彼女は笑った。

女には嘘は吐けない。───吐きにくい。

「嘘じゃない」

嘘、だ。

「ふふ、そう、関係ないの」

彼女はくすくすと笑いながら意味深長に私を見た。

「でも如何して?」

彼女は口元に笑いを含んだまま、首を傾げた。

「液体になったら、顔も解らないわ。其れでもいいの?」

彼女には解るまい。

彼女は人間の体温が好きなんだ。

「一緒の物質になれたら、楽だなと思った」

こういう風に、話す必要もない。

そう告げると、彼女は再びひっくり返って笑った。

「なに」

彼女の突然の哄笑に私は不機嫌に眉を潜める。

「いやぁ。其れって───」

その言葉で、彼女が何に対して笑っているのか一瞬にして理解した。

「う、皆まで言うな。…自分でもわかってる」

解ってる。解ってるんだ。

しかし彼女はよほどツボにはいったのか、「いや、云う」と言った。

こんな時の彼女は酷く残酷だ。

あの子なら、なんていうだろう。

「ふふ、其れってすっごく、」

嗚呼、聞きたくない。

自分の失敗は人に聞かされると倍羞恥を煽られる。

耳でも塞ぎたい気分だ。

私はゆっくり自分の頬が紅潮してくのが分かった。



「───面倒臭がり屋の理論よね」



耳が、熱い。

私は半ばやけくそ気味に彼女の晒された太ももを力いっぱい抓った。

「痛い!」

彼女は飛び起きた。

「痛くしてる。」

痣になるだろう。

しかしそうでもしなくては私の気が晴れない。

「こんなとこの痣、人に訊かれたら困るのに。」

「情熱的な恋人にキスされたっていえば?」

「言えるわけないじゃない。あぁ、もう。全く仕様の無いひと!」

「商売道具に傷をつけたか、悪かったね」

ふん、と鼻を鳴らして本を読み始めた私に、彼女は仕返しだといわんばかりに背中にのしかかってきた。

「重い」

「淑女に其れは失礼」

「売女の間違いだろ」

「貴女、少しは私に興味を持って」

げんなりとする彼女を、私は鼻で笑った。



「生憎。私は面倒臭がりなもんでね。」



end


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