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桃色握情‖手フェチの猛烈な手への執着 多少気持ち悪いかも知れない←



其の人の手はまるで、

透き通つた白魚のやうな手だつた。













肉は付きすぎづ、

かと言つて、痩せすぎでもゐなひ。


指は先端に向けて細く伸び、

指先は淡ひ桃色をしてひた。


爪は揺るやかなラヰンを描き、其処に有らねば成らぬモノのやうに、収まつてひた。


滑らかな指の股は、淡く血の色を透かして、香しひ薫りさへも湛へてゐた。


其の手は、

其のしなやかな指を、握ったり開いたりしただけで今にも壊れて仕舞ゐそふだつた。

羞じらふやうに、人差し指を曲げきゆうと握られた手は、

視界に入る脣さへも美しく見せた。



嗚呼彼の手が暗闇からぬうと姿を表したとき、

私は余りの美しさに、





其の手が慾しく成つた。






嗚呼彼の手が私の頬を包み、軟らかく愛撫するやうに頬をなぜたら、

私は思わず其の手を切り落とし、我が物にするだらう。


嗚呼見てくれ。


彼の手がピアノの盤を叩くのを。

ぴんと節が張り、上気したやうに手が色付く。

くにやりくにやりと蛇のやうに盤の上を滑りながら然し確りとした芯が有る。

華奢な指先が酷く盤を叩く。

空を引つ掻くやうに滑り、かつりかつりと爪が盤にぶつかる音が好きだつた。



何れだけ美しひ旋律を奏でやうとも、

私の心は其の手に囚はれて仕舞ふ。



嗚呼まるで一輪の花のやうだ!



触れたら私の体温で融けて仕舞ひそふだ。

まるで硝子細工をやうに素晴らしく完璧で有る。

透き通つた手は、恐らく己が血潮さえ透かすのだらう。



指先が、絡めとるやうに厚ひ本を抱へて居たら、私は其の本さへも、


羨むだらう。





嗚呼私は、

逸そ彼の手に絞め殺されて仕舞ひたい。


嗚呼然し、彼の手に不浄なもの等触って欲しくなひ。



嗚呼彼の手が愛しゐ。




だが私は彼の手の持ち主の事が同じやうに愛しゐと───


思つて居るのか?






───否。



私は彼の手が愛しゐのだ。





現に今、彼の手の持ち主の顔を覚へて居なゐ。



嗚呼其れでも!



何時か、彼の手を私のものにしたひ。




そして私は其の為に今日も───

彼の手に会ゐに行くのだ。





end


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