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祈っても変わらない世界‖綺麗なもの


息をするのが嫌になってしまった

生きているのが嫌になってしまった

死ぬことにした





即物的な考えだと解っているが、無意味に生きている位なら死んだらいいのだ。

そつなく日常をこなしながら、酷く身体が重い気がしてパズルを組み立てるように会話を繋ぐ。


吐いてしまいそうだ。


磨かれた御影石のように組み合わさる人間の薄っぺらい全ては私を苛立たせていたが、結局は憂鬱になるだけで終わった。

世界の残酷さに気付けない程愚かではなかったし、人間の良心に触れられない程劣悪な環境に居たわけでもない。

つまり、私が悪かったのだ。




「死のうと思っているんだ」

「人間は何時か死ぬ」

「私の何時かは今だ」

「…今?」




どん、と音がした。

其れは目の前の彼女が自らの首を殴った音だと気付いた。

しかし彼女の手が退けられると、血煙を上げながら真っ赤な血潮が噴き出した。

「嗚呼」

ふぶぶっ、と奇妙な音を立てながら血煙は彼女の紺色のベストを更に暗い色に染めた。

其れに反して、彼女の顔は蒼白に変わっていった。

「君が先に死ぬとは思わなかったよ」

失血のために意識の混濁が始まった彼女はごとんと音を立てて机に伏した。

「私に一言相談してくれたら美しい死に方を教えてあげられたのだが。見給え、私が血潮で大変な事になってるぞ。」

身動ぎ一つしなかった私は、彼女の飛沫を少なからず浴びた。

「参ったな。クリーニング出せるのか、コレ。」

けひけひと奇妙な呼吸音がして、私は漸く彼女が笑っているのだと解った。

「わざとか。悪趣味だな。」



けひけひ、げふっ



少量の血を吐いて、彼女は動かなくなった。

「……」

酷く生臭く、彼女の生きていた証拠が溢れ出していた。

生きる事は醜い事だ。

しかし死ぬことは美しい訳ではない。

死んで仕舞った後の事など解りはしないからだ。

出来れば間際には綺麗なものを見て死にたい。

彼女は自らの赤い血潮を見て満足だっただろうか。




「さよなら、おやすみ。」





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