微炭酸ラムネ‖夏の勢い ほぼ実体験
微炭酸ラムネ
ジリジリと太陽が照り付ける。
暑い。
涼しさを求めての短パン、ノースリーブが裏目に出た。
コンクリートの照り返しがキツイ。
ゴム製のビーサンはもう融けるんじゃないかと思う。
蝉の鳴き声は、まるで熱を運んで居る様だ。
───暑い。もう何の為に外に出たのかさえ覚えていない。
買い物だっけ?
何を?
夏の暑さに頭がヤられたな。
ペタペタと音を立てて、カサの有る商店街に逃げ込む。
日陰で多少涼しく成ったが、此れと言って特に用等なかった。
帰ろうか。
ああ本当に馬鹿馬鹿しい。
ベタつくシャツをぱたぱたと扇いで、ぐるりと振り返った。
りりん
───?
「暑いねぇ、ラムネどうだい?」
ぱたぱたと団扇で扇いで居る老婆が居た。
老婆の被る麦藁帽子が少し羨ましい。
「1本100円、如何だい?」
缶ジュースを買うより安い。
ポケットを探ると、丁度100円。
「……」
氷がキラキラと太陽の光を反射して涼しげだ。
「100円」
「……」
冷たいラムネの海に手を突っ込んで、水底に沈んでいたラムネを一本引き上げた。
そして、老婆の萎れた手に、銀の100円玉を乗せた。
「毎度あり」
老婆はしわくちゃな顔をすぼませて笑った。
ペタペタと歩きながら、瓶にビー玉を押し込んだ。
ガラスのぶつかり合う音は、酷く透き通った音だった。
(ラムネの上手な飲み方知ってる?瓶の側面に窪みが2つ有るでしょう、其処にビー玉を引っ掛けて、飲むの。)
───あ、何か要らん事思い出した。
ペタペタペタペタ
急に帰りたく無くなった。
ああ思い出した。
喧嘩して家を飛び出したんだっけ。
畜生糞暑い。
自分の思考が鬱陶しく成って、ラムネを喉の奥に流し込んだ。
痺れる様な感触がして、二酸化炭素が胃に滑り込んだ。
炭酸は、胃が焼ける様だ。
……炭酸苦手だったっけ。
少しだけ噎せて、今度はゆっくり流し込んだ。
瓶の表面には、水滴がびっしりとついている。
何となく一気に飲み下して、胃が膨れた。
キモチ悪イ。
視界がブレて、
遠くに揺れる陽炎に巻き込まれてみたく成った。
空っぽに成った瓶は最早邪魔者で。
持て余して、瓶を太陽に透かしてみる。
キラキラと光が屈折して、眼球に優しく光を届ける。
そして、ラムネを飲む度に毎回思うのだ。
ビー玉が欲しい。
然し悲しき旧型瓶。
口の所までガラス瓶なのさ。
ああ欲しい。
別に使い道なんて無いが、堪らなく欲しい。
ガチャガチャと乱暴に振ったところで何も変わりはしない。
そして、あ、と声を上げた。
簡単な方法が有る───
そしておもむろに瓶を振り上げて、
地面に叩き付けた。
ガチャン
と音が響いて、一瞬蝉の鳴き声が止んだ気がした。
透き通ったブルーのガラスの破片の中に、透明な球体を発見。
指先で摘まんでみるが、矢張り如何仕様も無い。
キラキラとしたガラスの破片に囲まれて、
呆然と立ち尽くした。
呆気ない。
透明なビー玉を太陽に透かしてみるが、如何にも、優しい光には成らなかった。
……下らない。
太陽に向かって、
強く
ビー玉を投げつけた。
(ねぇ、知ってる?ビー玉の簡単な取り出しかた───)
そうしてやっと、帰路につく事が出来た。
end
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