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生温い水‖例えば、生きること



「開けろよ」

何度目かの言葉。

答えはわかっている。

「駄目」


















ほら、矢っ張り同じ。

「…何で」

此れは初めて問う。

何故突然君は私を閉じ込めたのか。

「死にたがりへの罰」

嗚呼、そう、

君も私とは混ざれない。

「……生温い水に浸してじわじわと、じゃあ…逸そ殺してくれ」

君は、あの糞共と同じ人種なんだね。

「其れも出来ない」

「じゃあ出して。頭がおかしくなりそうだ。」

何もない。

此の部屋には、何もない。

「なればいい。さぞ楽しいだろうさ。」

「ぬるま湯の中で発狂できるか。だから殺せって言ってんだよ。」

だん、と床を叩くが、虚しく音だけが響いた。

「開けろよ」

「『病気で生きたくても生きれない人が沢山居るのに、自分を傷付けるなんてやめて下さいね』…」

「……何其れ」

私はドアに引っ付けていた身体を離した。

「今日学校休んだから知らないっしょ。センセーが言ってた。」

「下らねぇー…」

「うん、其の後延々と自分の命の武勇伝を語ってた」


「馬ッ鹿じゃない」

「何で?」

君の好奇心を煽るのは嫌いじゃない。

自己発信だと思えば寧ろ楽しいものだ。

「病気で死ぬのはそりゃ、カワイソーですよ。でもさ、其れって環境の違いでしょ」

「はぁ」

「周りに、死ね、死ね、って言い続けられてたら、誰が生きたいと思うよ」

君には見えてないだろうが、私は肩を竦めた。

「相当の変態サンだな」

「つまりはさ、病気で入院出来る様な人は周りにも、生きて、生きて、って言われててるから生きたいんでしょうよ」

私は眼を閉じて、首を反らした。

「あ゙ー、不謹慎かも知れないけどさ、死ねって言い続けられてた人はさ、不治の病にかかったら喜んで死ぬよ」

「そんなもんかぁ」

「んー…改めて生きたいとは思わないよ、多分、きっと、」

ギシ、とドアが軋んで、君もドアから身体を離したのが解った。

「『絶望ーの痛みをー学ぶ日々よー』」

「っはは、音痴」

私はもうドアを開ける気にはなれなかった。

「うっせぇ」

「はっは、なぁ、もう良いだろ?開けてくれよ」

もう、ドアなんて如何でも良い。

「君の顔が見たいんだよ」

くっくっ、と笑うと君は甘えた様な声を上げた。

「駄目だよ、未だ駄目」

「あら、口惜しい」

「目の前で笑って死なれたら、目覚めが悪くなるよ」

「バレたか」

あはは、と笑うと、外から衣擦れの音がした。

「未だ、出せないよ」

「うん。良いよ。」

良いんだ。此処に居れさえすれば傷付く事もない。

「少し、寝るよ」

「そ、ゆっくりオヤスミ」

君は何処かに行く。

でもきっと戻って来る。


(信じてるよ、なんて。言ったら君は此処を開けるだろうか。)

そんな事を考えながら、私は眼を閉じた。

(死ぬ気も失せたよ)



今は只、君に会いたい。





end


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