ポケットのカミサマ‖明日の必要性 暗
ポケットのカミサマが囁いた
君は死ぬんだよ、って
ポケットのカミサマ
「人は何時か必ず死ぬ。敢えて言わなくても良いじゃないか。」
私は意地悪に囁くカミサマに苛苛とした。
「本来は然うだ。しかし、本当に其れを理解している者は多くはない。」
含んだ様に冷静さを崩す物言いに、私は更に苛苛とした。
「じゃあ、何?私が理解してないと言いたいわけか」
「否君は迚も良く理解している。何より、君が持って居るカッターが証拠だ。」
まるで小馬鹿にしたように、ポケットのカミサマは言い放った。
「何が、言いたい」
お説教なんていらない。
下らない考えを押し付けられるのは大嫌いだからだ。
ちらほらと数人のお節介の顔が吐き気と共に浮かんでは消えた。
お前が誰に後ろ指さされるでもない万能な人間ならば私は靴だって舐めよう。
只脆くも世界に跪く人間に何を言われても私には、否、誰にも響かない。
考えの押し付けあい、一方通行の感情。
人を殺すな他人を殺すな自分を殺すな───
「何を考えているのかは知らないがね」
ハッ、と私は顔を上げた。
「死は幸福だ。君にも解る様に簡単な説明をしよう。」
ポケットのカミサマは少し勿体振るように言って、
私の思考が黙ったのを感じてか、嬉々として語りだした。
「先ず、生きる目的から変えたまえ。人間は涅槃に行くのが目的だ。つまり簡単に言えば、死ぬために生きて居るのだ。」
「…人間、生物全ての矛盾。」
馬鹿らし過ぎる。
生きる為に足掻くのに、其れは結局満足な死を迎える為の礎だなんて。
「正解だ」
「もう良いだろう。あんたと話していると苛苛する。」
「正解、正解。ならばなぜきみは、」
「───五月蝿いっ!五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!」
続く言葉が聞きたくなくて、耳を塞いだ。
「止めろ、お前なんて消えて仕舞え、殺してやる」
呪詛の様に言葉を吐き出す。
そうでもしなければ頭が壊れて仕舞うと、
「なぜきみはしのうとするのか」
キチガイじみた笑い声が頭の中に響いた。
「五月蝿い五月蝿いだってだって同じなんでしょ何時か死ぬなら何時死んだって良いじゃない良いでしょう何で死のうが自分の命一つ自由に出来ないってのかほらそうやって何度も私を殺して居るのに如何して如何して気付かないで何度も何度も何度も同じようにナイフを突き立てる生きてる方が苦しいなんて言わすなよ生きたいかも知れないじゃんもう生きたくないかも知れないけどさ結局そう思わすのは私の脳味噌事情じゃないでしょ違うよねそうでしょそりゃね自爆だってあるよだけど結局は結局は結局はさぁあああああんたも畜生同じだ殺してやる殺してやる殺してやる」
ミシッ、と鈍い音を立てて、カミサマの頚をへし折った。
「きみは、けものか」
「チガウ」
「きみがわたしを殺して生きるなら、何度だって殺してくれて構わない」
「素敵な自己犠牲を有り難う、最低だ」
酷く頭が痛み、床に崩れ落ちた。
「もういい。あんたも明日も要らない。」
「御休み、良い夢を」
「あんたの所為で悪夢しかない」
憎まれ口を叩くが、ポケットのカミサマは笑うだけだった。
(畜生、何か悔しい)
生きて居るのか、生かされて居るのか。
(もう放っといてくれよ)
きっと明日も、ポケットのカミサマが朝を告げる。
───おはよう
end
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