歯車リリー‖大好きなマ.キシ.マ.ムザホ.ルモ.ンさんの有名な曲のパロ
ごめんね リリー
ママより好きだった
ごめんね リリー
俺は無力だよ───
歯車リリー
「リリー、リリー!」
「…?」
ぎぎ、と音を立てて、リリーが振り向いた。
「俺のパンツ洗うならもっとちゃんと洗ってくれよ!」
洗濯液の付いた自分の下着を突き出して、リリーの反応を伺う。
「…!…」
「大体、前も風呂をマグマにしやがって…」
リリーはチカチカと目を光らせて、煙りを吐いた。
「ちょ…又エンストかよ!あーもう、パパ…って、駄目か」
俺は仕方なくリリーをガレージへ運んだ。
リリーは今月に入ってもう5回もエンストをしてる。
(平成の終わりに生産された試作品だもんな…。構造も単純。)
リリーの内蔵に手を入れ、プラグ同士を繋ぐ。
ぽたりと頬に降るのは、まるで涙の様なリリーの油。
(リリー…)
ぎぎ、と鈍い音がして、リリーの手が動いた。
そして、ゆっくりとカラフルなエプロンのワッペンを一つ取って、俺に渡した。
「……、」
「…何だよ。」
可愛らしいフルーツのワッペン。
持て余してポケットに突っ込んだ。
「………」
「電子容量がオーバー?そんなの容量増やせば良いだろ?」
「……」
「…試作品だから生産されてないって…そんな中途半端なこと」
言葉を遮る様に、オーバーヒートした人膚の暖かさの固い手を俺の頭を撫でる様に滑らせた。
「…」
「……好きに…しろよ。でも、パパに辞めたいなんて言うなよ。」
チカチカと光るエラーランプ。
───リリーが居なくなるなんて、考えた事も無かった。
「───」
リリーは静かに頷いた。
翌朝
「───リリー、リリー?」
リリーが見当たらない。
昨日あんなこと言ってたぶん、少し心配だった。
「リリー?…」
ガレージの方から、リリーの電子音が聞こえた。
ガーガガピガガガガガピーガー
ガガピガガガガガガピーガー…
「…リリー!」
ガレージへ走る。
リリーの首のパイプに振り下ろされる斧。
「待って!!!」
ぶちり
「リリ───っ!」
ごろごろと転がった首の繋ぎ目で
電気ショートの音が虚しく響き出す。
「如何したんだ?」
「パパ…」
パパはゆっくりと斧を置いて笑った。
「リリーは試作品の中でもジャンクだったからね。もっと良いのを買うよ。」
ポンポンと俺の頭を撫でて、パパは業者に連絡をしに行った。
俺は地面に膝を付いて、ぼんやりと視線をさ迷わせた。
(リリー…)
触れてみるが、冷たいボディに、通う意思は無い。
「リリー…、おい、起きろよ。何時もみたいに、俺のパンツ洗ってくれよ。」
細いコードの繋ぎ目を、震える手で手繰り寄せる。
ボウリング玉一つ程度の重さの頭に初めて涙が零れた。
拾ったリリーの眼から───オイルが頬を伝っていた。
もう二度と戻らない。
冷たく固いリリーのボディに、
ゆっくりと手を突っ込んだ。
そして、掌程度の大きさの歯車を取り出して、
「バイバイリリー…」
リリーは其の日の内に、スクラップに成った。
紙くずを丸める様に、簡単に。
そして俺はポケットに何時も、フルーツのワッペンを忍ばせる様に成った。
end
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