血潮‖戦の日常 佐+幸
身体が心臓の様に成って仕舞った様だ。
身体中脈打って居る。
「はぁッ、はぁッ、…」
敵は居るか敵は居るか敵は居るか敵は居るか敵は──
「旦那」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ───
「旦那」
煩い、黙れ。
「旦那、帰ろう?」
五月蝿い!
「旦那」
ぽん、と肩に手が触れた瞬間に、
膝から崩れ落ちた。
「無理しないでよ、旦那。」
「あ、ああ……」
悪い夢でも見ていた子供を宥める母親の様に、
ヨシヨシと頭を撫でた。
「おい、佐助、…」
「何?」
「俺は子供じゃないぞ」
不満気に唇を尖らせて、血で滑る槍を握りなおした。
先程までの、猛禽類の其れだった眼は柔らかく変わり、只の青年の顔に戻った。
「もー、前後見境無くなるのは子供の証拠だよ。」
「う、五月蝿い。」
佐助は、ねっとりと張り付いた前髪を払ってやったが、
幸村は佐助の手にも血が付いている事を指摘して笑った。
「意味がないではないか!」
「俺様がしたいからするの。」
悪びれる様子も無く、「さて」と狼煙の上がる空を見上げた。
「帰ろうか」
歩ける?等と冗談めかして笑い、幸村は佐助こそと小突いて見せた。
「帰ったら、先ず湯に浸からないとな」
のんびりとぼやく様に呟いて、
遠く空を見上げた。
「旦那───、行くよ?」
「なっ、何時の間に…!佐助早いぞ!?」
「旦那が余所見してるからだよ〜」
柔らかな屍の路を踏みしめ、
赤黒い世界を後にした。
End
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