此方向いて?‖現# 以前灸様にキリリクして頂いたモノの過去幸村目線
父の親戚らしい人が、交通事故で死んだらしい。
夫婦で出かけているときに、ブレーキの故障だったか、カーブでのスピードの出しすぎか。
しかし幸村にとって其れは然して大きな問題ではなかったため、うろ覚えだった。
葬式帰り、弟ができるよ、と突然母は冗談めかして笑った。
「本当?」
突拍子もない言葉だったが、幸村はパッと母の顔を見上げた。
「本当だ。次の日曜日、会いに行こう。」
父がくしゃりと幸村の髪を撫で、にっこりと笑った。
「ん!」
尤も、其の弟とは死んだ夫妻の子供なのだが。
しかしそんな事は矢張り幸村にとっては如何でも良くて。
父に抱えられながら、幸村は新しい家族に想いを馳せた。
次の日曜日、幸村は児童養護施設と云うところに連れて行かれた。
そして、茶色い革張りのソファーに暫く待たされていると、独りの子供が連れて来られた。
真っ先に目に入ったのは、鮮やかな赤毛だった。
そして酷く大人びた目に不釣り合いな、大きなウサギのぬいぐるみを引き摺っていた。
しかし、其れを大切にしていると云うよりは、耳の根っこを持って仕方無く運んでいると云う様子だった。
父は其の子供の前に膝をついて、目線を合わせた。
「こんにちは。君が───佐助くん?」
幸村は、一目で弟が気に入っていた。
「……。」
しかし佐助は僅かに身を固くしただけだった。
幸村はチラチラと昌幸と佐助を交互に見た。
「此の子は幸村。君のお兄さんになるんだよ。」
佐助は、ぎゅ、とウサギのぬいぐるみを握り締め、探るように昌幸を見た。
そして、初めて幸村を見た。
「!…」
幸村はドキドキとしながらも小さく手を振った。
しかし佐助は、じっと此方を見詰め、直ぐに逸らした。
そんな佐助に昌幸は苦笑を浮かべ、
「…それじゃ、」
と言って立ち上がった。
「少しお話してくるから、二人は待っててくれる?」
コクコクと頷く幸村の頭を撫で、大人は皆出て行った。
───しかし其のおかげか、佐助は被っていた巨大な猫を脱ぎ捨てた。
「───…えっと…佐助、今幾つなのだ?」
「9歳…あんたは?」
じぃ、と幸村を見詰める佐助の眼は先程とは違い、好奇心に満ちていた。
「俺は11になる!」
会話ができて嬉しがる幸村だったが、佐助は鼻で笑った。
「───へぇ。随分、童顔なんだね。」
そして、にやり、と何処で覚えたのか艶っぽい笑み浮かべた。
多分、此方が本物の表情なのかも知れないが。
「むむ、嫌な言葉を知ってるな」
幸村が唇を尖らすと、佐助はくすくすと笑って唇に触れた。
「やだなぁ。可愛いって褒めてたんだけど。」
一体如何云う環境で育ったのか知りたくなるくらいに、佐助は大人びていた。
「な……、からかうな!」
幸村は、カァッと頬を染めて其の手を払った。
しかし既に佐助のペースに完全に呑まれていた。
「あのさー、今多分俺様を引き取る話ししてると思うんだけど…」
「うむ」
幸村はこっくりと頷いた。
「止めた方が良いよ」
「何故?」
「言えない」
「?ならば結局良いではないか。ヒミツはヒミツのままで構わぬぞ?」
「…あんた達にメーワクかかるって言ってんの」
「迷惑なものか。佐助は家族になるのだ!」
幸村の屈託の無い表情に毒気を抜かれたのか、佐助は長い溜め息を吐いて座り込んだ。
「如何かしたか?」
「別にぃー…」
再び無表情に戻った佐助に、幸村は兼ねてから気に入っていた髪に触れた。
「綺麗な髪だな。」
指先でそっと触れていると、好きにさせていた佐助が漸く幸村を見た。
「………本当にそう思う?」
先程とはうってかわって、其の瞳は初めて不安気に揺れた。
「うむ!キラキラしてて綺麗だ。」
幸村が正直に頷くと、佐助は漸く子供らしく微笑んだ。
「ありがと…」
幸村は、新しい弟が大好きになった。
「待たせたね。」
昌幸が戻って来ると、幸村はぎゅ、と佐助の手を握った。
「あら、もう仲良しさん?」
くすくすと母は笑うと、二人の前に屈んだ。
「帰ろうか」
母の柔らかい手が二人の手を包んで、すっと立ち上がった。
「佐助は何が好き?何でも作ってあげる」
急に話しを振られた佐助は目を丸くしたが、
「……解んない。作ってもらった事ないから。」
と恥ずかしそうに視線を逸らした。
「そっか。じゃあ、お母さんの得意なものを作ろうかな。」
そして佐助は、家族になった。
end
無料HPエムペ!