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蝶の花‖信長と濃姫 死ネタ



雨が降っていた。




視界が曇る。

戦の匂いも掻き消えて、其処は静かな焼け野だった。

「……」

目の前に転がるのは、真っ赤な着物に包まれた、

己の妻。

「上総……さま…」

唇に赤が伝う。

「其の程度か」

苦々し気に唇を引き結んで、

「申し訳……御座い、ませ…ん…」

「立たぬか」

じわりと腹部が赤く濡れ、髪が頬に張り付いて離れない。

「立つ…事は、最早…」

関節に力が入らない様だ。

動かぬ己の身体を悔しそうに睨み付けて、小さく首を振った。

「上総、介…さま、…」

瞳が揺らめいて、ゆっくりと灯火が消えてゆく。

「愚かな女よ…」

「は…い…」

濃は薄く笑った。

貴方に愛される事が全て、と。

「愛して…いま…した…」

地獄で会いましょう。


ふっ、と、花が散る様に。

完全に光が失われた。

「濃…愚かな」

愛して居るなど、戯言を。

戦場を舞う一匹の蝶が、消えた。

雨で濡れた地に膝を付いて、妻の身体を抱き上げた。

「余に着いて来いと言った筈よ…」

だらりと垂れた手に、固く握られた銃。

死して尚離さぬか。

「帰蝶…」

打ち付ける冷たい雨が、赤を洗う。

「…ふ、ふ、ふははははッ!」

地が震え、雨さえ避けて降る様だった。

「上総介の名で呼ぶ者はもう居らぬ!」

狂気の嗤い声は、まるで、───

妻の身体を抱え、高らかに嗤った。

「我が名は織田信長!地獄の第六天魔王よ!」

ばん、と空高くに銃を打ち上げ、

「是非もなしッ!」

魔王は叫んだ。

「ふははははッ!ははははははッ!」

僅かに温い妻の身体が、

冷たい雨は濡らされ、

戻る事の無い体温を奪う。


「帰蝶…ぬし等居らんでも、天下をとって見せようぞ。」


囁く声は雨に消えた。



雨は、止まない。














end


あきゅろす。
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