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絶望哲学‖学#それれぞれの絶望 慶、政→佐幸



「おい、猿飛」

政宗は窓枠に完全に凭れかかって、

心此処に有らずと言った感じで窓の外を見詰めて仕舞っている友人に、少し躊躇いながら話しかけた。

「何?」

「…随分nervousな顔だな。何事だ?」

反応を示した事に何処かホッとしながらも何時もと変わらない口調で話し掛けた。

「別にー…」

しかし、佐助はぼんやりと窓の外に目をやった。

「おい、…」

政宗は眉を潜めながら佐助の隣に座った。

(…本当に、何でもないんだけど)

心配させたか、と佐助は思ったが、口に出すのも面倒になって裡に留めた。

只何となくぼぅっとしたくて空を見上げていたら、眠いようなダルさが襲ってきて、


只其れだけなのだ。


(あれ、)

指さえも動かしたくなくて、

明るすぎる太陽に焦がされて蒸発してしまう矮小な水溜まりの様な気分になる。

(何だろう)


「─ぁ…──ろ、───おい、佐助」

ハッと顔を上げると、いよいよ困った様な怒った様な顔をした政宗と目があった。

「っえ?あ、ごめ、…聞いて無かった」

「…大丈夫かよ、お前」

「あー、うん。多分。」

(多分、大丈夫)

どこかぐったりとしはじめた佐助に、政宗は小さく溜め息を吐いた。

「幸村の子守り疲れか?」

「んな訳無いでしょ、…何か、俺様凄く絶望した気分。」

「あぁ?…絶望?」

「そ、絶望」

佐助は緋色の髪に指を突っ込んでガシガシと髪を乱した。

「絶望ってそんなeasilyなモンじゃねぇだろ」

政宗は無意識の内に軽く右目に触れた。

「───いや、俺様は結構簡単だと思う」

「…Why?」

「…政宗は絶望ってなんだと思う?」

質問を質問で返された政宗は、何時もなら俺の問いに先に答えろと、云うが、

佐助の様子に眉を潜めながらも答えた。

「……泣いたり、喚いたりしても何も変わらねぇし、絶望からは何も産まれねぇ。」

右眼から手を離して、酷く言い難そうに政宗は言った。

「だよね。…俺様そんな非生産的行為をしてて何が楽しいんだろ。」

はぁ、と息を吐いて下を向いた。

「おいおい、今度はお前が話せよ。」

「えー…」

もごもごとくぐもった声で、佐助は返事をした。

「お前の言う、easilyな絶望ってヤツ教えてくれよ。」

政宗は頬杖を着いて、佐助の言葉を待った。

「受け止め方の問題」

そう呟いて、佐助はゆっくりと顔を上げた。

「例えばさ、消しゴムが無くなったら困るじゃん?」

「…困るな」

「シャーペンは貸してもらえるけどさ、消しゴム二つ常備してる人って少ないからさ、結構強くあーやっちゃったって思うじゃん」

「あぁ、まぁ、確かに」

「つまり、…そーゆーこと」

面倒臭そうに佐助は話しを切った。

「あぁん?猿、端寄過ぎだ。」

「そう?…極端な話しね、消しゴム一つで人は絶望出来る。消しゴム一つで人は死ねるってこと。」

佐助は再び空を見上げた。

「…消しゴムぐらい貸すぞ」

「いや、例えばだから。俺様今日消しゴム有るし。」

くく、と、佐助は初めて笑った。

「───何ぁに話してんのさ?」

突然テンション高めに声を掛けてきたのは、慶次だった。

「HA!相変わらず花舞ってんな」

気楽な野郎だ、と政宗は慶次を小突いた。

「え、そう?花飛んでる?」

慶次はパタパタと冗談めかして頭上を扇いだ。

「あ、ねぇ、慶ちゃんはさ、絶望って何だと思う?」

「え?」

突然の質問に、慶次は眼を丸くした。

「随分急な質問だねぇ」

うーん、と考える仕草をした。

「さっきの話題だったさ、何となく気になっただけなんだけど。」

佐助は先程とはうってかわって、何時も通りの笑顔を向けた。

「えぇ、と、…形は如何であれ、皆味わってんじゃないかと、思う。」

「Shape?」

慶次はゆっくりと窓枠に腕を掛けて、うん、と頷いた。

「端から見たら何でもない事でもさ、其の人にとっては凄く大きい事って有るだろ?」

「あー、うん。有るかも、」

「其れでさ、えーっと……まぁ、生きてるって其れだけですげぇって事なんじゃないの、かな?」

「へぇ、慶ちゃんらしいね」

へら、と佐助は笑って、頬杖をついた。

「生きてるだけで良い、か。良いねぇ。」

「そうかい?」

「能天気、だな」

ふん、と呆れた様に政宗はそっぽ向いた。

(政宗が共感出来ないのは、自分なりの絶望の物差しを持って居るから、なんだろう)

佐助はぼんやりと空に目線を移した。

「……」

政宗は視線を辿り、空を見上げた。

其処に何か有るような気がしたが、青い空が有るだけだった。

「───あ、」

一人だけ視線を地面に向けていた慶次は短く声を上げた。

「ゆっきーだ」

「Ha?…」

「ほら、あそこ。…珍しい。こんな時間に登校なんて。」

窓から身を乗り出して、「おーい」と慶次は手を振った。

政宗も身を乗り出して唇の端を上げて笑った。

しかし、佐助はそぅっと窓枠から身体を離して、先程の惰性が嘘の様に走り出した。

「っおい、」

「あれ、佐助?」

政宗は、追いかけようと思って、直ぐに止めた。

(野暮だな)

椅子に座り直して、政宗は校舎に向かって歩いている幸村に視線を移した。

「佐助如何したんだ?」

慶次は不思議そうに首を捻った。

「幸村を迎えに行ったんだろ。」

半ばなげやりに言って、見てろよ、と顎をしゃくった。

「…?」

慶次は大人しく座り直した。

程無くして、目立つ赤毛が校舎から飛び出した。

何時もとは矢張りどこか違い、遠目からでも躊躇いがちに幸村の襟元に触れていた。

「……?」

しかし幸村は何時もと変わらない様に笑って、佐助の腕を掴んだ。

そして、勿論聞き取れないが一言二言交わして、佐助が唐突に幸村にしがみついた。

「わ、オカンが甘えた」

「甘えたな」

幸村はフリーズする事なく、よしよしと軽く背中を叩いていた。

「…なんだ、ありゃ。」

「はは、仲良き事は良い事だろ?」

始業のチャイムと共に、慶次は、ぽん、と政宗の背中を叩いて席に戻って行った。

(イイコト、ねぇ)

政宗は、使いもしないシャーペンを握り、ぼんやりと二人を観察し続けた。

二人はゆっくりと視線を合わせて、極自然に唇を重ねた。

(───、あ)

政宗はポロリとシャーペンを落とした。

其れは紛れもなく接吻と云うやつで。

シャーペンが、コロコロと机の上を転がっていく数秒の事だった。

(誰かに見付かれ、ばーか)

唇を話しても引っ付いた儘の二人に、べぇ、と餓鬼っぽく舌を出した。

最早見る気もしなくなって、小さく溜め息を吐いて頬杖をついた。

じゃれあうように肩に顔を埋めていた幸村の、伏せられた顔がゆっくりと此方に向かって上げられた。

(…shut)

眼を逸らす訳にも行かず、一瞬だけ眼があった。

其の一瞬幸村は、

何時も見せる様な笑顔ではなく、


にやりと、


妖艶に笑った。

「───、」

見られていると、知った上での行為だったのだ。

(取りゃ…しねーよ、)

ふん、と精一杯の虚勢で、此方もにやりと笑ってみせた。





ただ、じわりと



絶望にも似た感情が沸き上がっていた。




end


あきゅろす。
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