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甘い憂鬱‖現#佐助とかすが 二人とも不安定片想い


ガムシロップ一つ、もう一つ

角砂糖一つ二つ三つ四つ

シュガースティック一本二本三本


くるくる混ぜる


「死ぬ気か?」

「かもね」

自分で聞いて、ギョッとした顔をするかすが。

「お前がそんな容易く死ぬとは思わなかったな。」

「うん」

的を得ない言葉に苛々したように眉を潜めた。

「……何があった」

「別にぃー」

珈琲の匂い、角砂糖。

「嘘笑いもしないお前など、気持ち悪い」

嘘でも良いから笑ってなんて。

「…かすがちゃん酷い」

「五月蝿い」

吐き捨てる様に言って、自分が頼んだ苺のムースケーキを口に運んだ。

「ねぇそれ、甘い?」

それ、とかすがが食べるケーキを指した。

「…いや、控えめ…だな」

「あ、そ…」

途端に興味が無くなったかの様に、ガムシロップを珈琲に投入した。

「甘いだけの液体だな」

「かもね」

沈殿しはじめた砂糖を気にせずに、佐助は一口飲み込んだ。

「……うぇ」

案の定、独特の味も風味も消え去った其れには、

『甘いだけの液体』という表現がピッタリだった。

「甘い物、嫌いじゃなかったか?」

「嫌いじゃないよ。好きでもないけど…」

無理矢理嚥下したそれのざらつきを気にする様に喉を撫でた。

「ならば、何故だ?」

甘党にも眉を潜めさせる様な物を無理に飲む理由。



「───旦那が甘い物好きだから」



かすがは一瞬呆けた顔をして、重症だな、と呟いた。

「同じもん、好きに成りたいじゃん。」

「……其れは解る」

丁寧に食べてもぐちゃぐちゃになって仕舞うムースをフォークでつついて、かすがは溜め息を吐いた。

「でしょ?」

嘘臭い満面の笑み。

赤い髪が少し揺れた。

「…私は酒を飲む、か」

かすがはふ、と遠くを見た。

「未成年〜。って、今更か…」

佐助はカチャカチャと無駄に珈琲をかき回して、再度挑戦する。

「……ぅっ」

「そのうち甘い物が嫌いになるぞ」

かすがは頬杖をついて、観察するようにメニューを見る。

「…なんないよ。旦那が甘い物嫌いにならない限り。」

「普通じゃないぞ」

顔を上げないまま、私は未だ大丈夫、と小さく呟いた。

「其れでも良いよ」

「如何かしてる」

「其れはお互い様でしょ?」

普通じゃないのは俺様だけ。

でも如何かしてるのは、君もだろ?

「……私は」

「変わんないよ。───歪んでる、俺達」

ドロドロに溶けた砂糖を舌に乗せて、小さく呻いた。

「…如何して、なんだろうなぁ。生まれ変わって、何度も何度も違う道が有ったのに」

かすがは二つ目のケーキを注文した。

「後悔でもしてるのか?」

「してないから嫌なんじゃん」

只の一片も。

後悔なんて言葉が浅ましい程に。

「あーあ。今日、何作ってあげようかな」

夕飯、とかすがを真似る様に頬杖をついた。

「すき焼きにしようかな。牛肉…、豆腐に白滝は安いし。」

主婦の様に献立を組み立てて満足気に買い出しのメモをとった。

「あー、デザートは如何しよっかな」

「珈琲ヌガー」

かすがは再びメニューに視線を戻して、如何でもよさそうに言った。

「嫌がらせだと思われる。大体作るの大変よ?」

失礼します、と、二つ目のケーキが来た。

「早いね…なにそれ?」

「ミルフィーユのリキュール仕立て、だ」

「洋酒?」

ほら、やっぱり歪んでんじゃん。

「先ずはゆっくり舌を慣らすんだ。」

薄茶色の生地は、ふわふわとしていて甘さとは無縁に見えた。

「美味しそーだこと」

あ、紅茶のシフォンケーキが食べたい気がする。

程好い甘さには珈琲が合うんだよ、旦那は珈琲飲まないけど。

緑茶の苦味は平気な癖に、何でだろ。珈琲の酸味が駄目なのかな。

そうだ、昔っからそうだったよなぁ。

甘党で、団子が大好きで。

ずっと、ずっと昔から、

「やらんぞ」

「あ、うん」

ハッと顔を上げて、取り繕う様に笑った。

「…上の空を止めろ、阿呆面め。」

酷いなぁ、と笑って、珈琲を口に含んだ。

「お前、今日は特に変だぞ。」

ずっと昔から君は変わらなくて、甘い物が大好きで、底抜けに明るくて、

なのに俺様は歪んだまんま変われなくて───

「うん、ごめん…」

ぐしゃぐしゃと髪を掴んで、少し顔を隠した。

「………おい」

「…ごめん……」

口に含んだ甘さに涙が出そうなんて。

「本当…如何かしてるよなぁ…」

溜め息の様に笑いを吐き出した。

「……もうよせ、笑うな」

違う状態の自分を見て居る様で泣きたくなって仕舞うだろう、とかすがは思った。

「笑わなきゃ、旦那困っちゃうじゃん?」

佐助は少し目蓋を押さえて、直ぐに顔を上げた。

「お前の中心は…真田幸村か」

「そだね。かすがも……そうでしょ?」

上杉、と唇だけで象って、ニマッと笑った。

「……黙れ。彼の御方は…私等見てはいない」

かすがは顔を伏せて、少し唇を噛んだ。

「…あぁ、嫌だねぇ。大将は狡いよ。」

時々殺したくなる。

「虎が消えても…彼の御方は私を見ては下さらない」

「学習したこと?」

かすがはこくん、と可愛らしく頷いた。

「かすがは泣いても良いんだよ?」

「…ふん、馬鹿にするな。」

パッと顔を上げて、悪戯っぽく口元を歪めた。

「可愛くないなぁ」

「お前に言われても気味が悪いだけだ。」

そう言ってかすがはケーキの最後の一口を食べて、メランコリックに視線をずらした。

(見ないで見ないで、もっと触れて)

「愛して欲しいなんて、ねぇ」

馬鹿だね、と小さく呟いて、スプーンを置いた。

そして甘い液体を喉に流し込む。

「隠して隠して、又死ぬのかなぁ?」

「…刃の下に心有り。忍はそういうものだ」



沈殿した砂糖は見ないフリ。




end


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