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素敵な世界‖死ネタ、大阪夏の陣 狂気 佐幸*



───大阪、夏の陣




「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

らしくもない、忍が息を切らすなんて。

佐助は一人自嘲するように笑ってみる。

身体が重い、でも走らなきゃ。

腕に抱えた熱の塊が、

徐々に暖かさを失って行く。


───冷静に、冷静に…っ!


機械的に足を動かして、陣から離れて行く。

その間も絶えず流れる主の血。

「…っ」

速く、もっと速く。

「旦那ッ…だんなぁッ!」


もう駄目だ、もう、───


足を止めて冷える身体を横たえる。

「っは、佐助、さす、け」

「此処に居るよ、此処に、居る…!」

べったりと血に濡れた柔らかい髪を払う。

「大丈夫だ、今すぐ、」

止血さえも間に合わない。


赤に浸食される。


「───もうよい」

「え、」

冷水を浴びせかけられた様に身体を強張らせた。

「もうよいのだ、佐助…」

「い、やだ、嫌だ、絶対に」

「ふ…、ふふ、初めて見たぞ、其の様に取り乱す等と…」

「そんな、事…っ」

嫌だ嫌だ嫌だ

こんな、終わり方

嫌だ

「何だ、こんな時ぐらい…泣いて見せ…よ」

「あんたの為なら…何だって…っ」

「うむ、わかって、おるわ」

嗚呼何だってこんな時に笑うんだ!

「ふ…む、死ぬとは、此の様な感覚なのだな」

「止め、ろよ…アンタは未だ…っ」

「ふ…佐助、……大好き」

「ッ俺も、愛してる」

ああ如何して、こんなに、血が!

絶対に殺してやる、絶対に。

どろどろとした黒いモノが固まって、型を成して行く。

全部全部赦さない。

神も仏も、全部全部全部ッ…!

「佐助、もっと…、一緒に…っ」

ぬるりとした熱が、指先に絡まって一層熱が奪われて行く。

「う、あっ…あ」

あかい、あかい

「旦那、ずっと、」

無理矢理笑おうとした。

幸村も笑った。

「ずっ、と?」

「ああ、ずっと…っ」

ほっと笑い、幸村の表情が狂気に歪んだ。


「───え、?」


瞬間、胸に、激痛が走った。


「か、っ…は」

一瞬理解が遅れた。


「ずっと、一緒、だ、ろう?」

鼓動と共に溢れる血。

ゆっくりと視線を移せば、突き立てられた短刀。

「ふふ、佐助…」

「だん、な…」

ぐり、と短刀が動いて、引き抜かれた。

「ぐっ…は…」

ガクガクと手が震え、肺に入り込んだ血が吐き出される。

「ひとりは、嫌だ」

パタパタと流れる血が、少しずつ幸村を汚す。

ああ、汚して、ごめんね。


「ひとりは、」

「う、ん」


嬉しそうに、佐助の表情も狂気に歪んだ。



───嫌だよねひとりは嫌だよね!


俺様も旦那の居ない世界なんて要らない!




───ああ何て幸運なんだろう!!




幸村が俺を殺して呉れるなんて!


にっこりと笑ってみせると、幸村もにっこりと笑い返した。

「ゆきむら、っあいし…てる」

「うむ」


どくどくと流れる互いの血が溢れ、混ざり、交ざる。


(ああ何て幸運!)


視界が霞む。

「だんなの、顔が…っ見えない…よ」

「はは…俺も、だ…」

幸村の肩に顔を埋める。

「ッは…」

血生臭い匂いが鼻を突く。

其れさえも興奮作用!

顔を上げて、接吻をする。

舌を絡ませれば、どろりとした血の塊が混ざり合う。

「ッふ…ン」

「っさいこ……」

冷たくなる幸村の身体を抱き抱えて、にっこりと微笑んだ。


(もう二度と離すもんか!)




end










貴方と俺

狂って居たのは───?







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