真っ暗闇に浮かぶ月の虹‖現# 佐幸
───僕らが死んで、生まれ変わって
互いの事なんて忘れて仕舞っても
誰か一人を命を賭けて愛した事は忘れたくない
真っ暗闇に浮かぶ月の虹
真夜中、夢を見て身体を起こす。
「っ…」
少し頭痛がした。
───ねぇ、愛してる
(誰を?)
───本当に、怖いくらい幸せ
(如何して?)
───本当、ほら、もう笑って?一緒に甘味処行こうよ
(……)
夜中にぐらぐら
無性に心が冷える
(だん、な)
暖めて、何処か、冷えるんだ。
身体が、心が。
暗闇に押し潰されそう。
(…顔、だけでも、見て来よう)
跫を殺して進む。
───ごめんね?起こすつもり無かったんだけどさ。
(っあ)
頭痛と、動悸。
何を思い出して居るのか。
記憶には無い筈の、記憶。
(誰か、の)
泣き出しそうな程に切ない、其れでも何処か、曖昧な記憶。
ベージュの色した扉の前に立ち、凹凸を指でなぞった。
そして、ゆっくり部屋のドアを開ける。
時間も時間だ。
幸村は静かな寝息を立てて眠っていた。
窓から忍び込む冷たい月光の光が、滑らかな輪郭に影を落として、
(あ、)
静かに、まるで、死んで居るかの───様に。
───ぁ、ああぁああぁああぁあぁぁぁっっ
ノイズ
(っ、ぁあぁぁあ───)
恐怖、絶望、───死。
ごとん。
「…んぅ…?」
幸村は物音に眼を覚まし、身を捩らせて辺りを見回す。
「…佐助?」
暗闇に踞る黒い影。
「…な……だん…な…」
「佐助?如何した!」
「ごめ…何か…起こす…つもりじゃ、」
「佐助…?」
「ごめ…ん、ね…?」
───守るって、言ったのに
「…佐助…此方へ来い」
「え…?」
ポンポンとベッドを叩いて、
「ほら、早く来い」
と身体をずらした。
「眠れないのだろう?」
「う、ん。まぁ、ね」
「早く、…冷えるだろう」
寒そうに少し肩を抱いて蒲団を引っ張る。
「え、と……」
「命令だ、と言ったら?」
幸村は少し笑って、月光を仰いだ。
「おぉ、見ろ佐助。虹だ。」
「え?」
一瞬何を言って居るのか解らなかった。
「月の回りに虹が出て居るぞ!」
幸村の指差す方向を視線で辿り、ベッドのバネを軋ませる。
「───あぁ、珍しいね」
「うむ、初めて見た!」
「夜中にしか見れないからね。また今度、」
───今度、一緒に見ようね?
「っ、」
声がダブって、息が詰まった。
「…なぁ、佐助」
「何?」
「俺は佐助に、同じ事を言われた気がする」
「え…」
幸村は月を仰いだまま、動かない。
「旦那?」
「上手く思い出せぬが、…何故だろうな」
へらっと笑って、幸村は勢い良く佐助をベッドに引き摺り込んだ。
「ちょっ、旦那!」
「随分冷えてるな。」
幸村は柔らかい頬を胸に押し当てて、眼を閉じた。
「佐助、お前も眠れ」
「…うん、有り難う、ね」
躊躇いがちに幸村の身体を抱き寄せて、眼を閉じた。
(あ、れ)
静かに
静かに頬を伝う涙
(何だ、これ。何で、)
ぽつぽつと、涙は静かに染みを作り、佐助を困惑させた。
月光は僅か目蓋を透かして。
(ま、いっか)
抱き寄せた暖かい存在が、全ての理由の様な気がして。
(おやすみ)
end
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