イヤホン‖現#学生佐幸 サボタージュで甘甘
「旦那ぁ…、次の授業面倒じゃない?」
イヤホン
佐助は教科書も出さずに幸村に声を掛ける。
「如何したのだ?」
小さく笑いながら、幸村は出しかけの教科書をしまった。
「…あー…1時間なら良いよな」
佐助は独り呟いて立ち上がり、行こうと手を引いた。
「さ、佐助っ?」
教師が来る前に席を立って、「保健室行ってくる」と佐助が伝える。
男子2人で連れ保健室は無い。
皆苦笑を返しながら安静にな、と送った。
「───佐助っ!こ、此れは俗に言う、さ、サボタージュ…!」
「うん。旦那も又、大人の階段登ったね。」
「なっ…そ、そうなのか…?」
幸村は、はっとした様な顔をして、大真面目に頷いた。
「そうそう。───ねぇ、旦那。誰も来なくて静かな所、知らない?」
サボタージュには重要だよ〜と嘯く。
「おぉ、其れならば屋上が良い。先日、誰か鍵壊したままだった筈だろう。」
キラキラと眼を輝かせながら、幸村はニッと笑った。
「へぇ! 流石旦那。」
「ふふん。……壊したのは俺では無いぞ?」
「何でも良いよ。ほら、急がないと授業始まっちゃう。」
「ぉ、おう」
ガタガタと各教室から椅子に座ったり、授業を始める音が聞こえる。
其れを尻目に、急いで階段を駆け上がって、
恐る恐るドアノブをまわす。
───カチャ
「開いた…っ」
やや半信半疑だった幸村は、ホッとした様に息吐いた。
「ふー…、今日も空は平和だねぇ…」
のんびりと佐助は入ってくる。
「此処は…確かに平和だな」
眼を閉じて、吹き上げる風を身体で受け止める。
「あ、そうだ、丁度良い。此れ聞かない?」
「ん?」
佐助はポケットからMDを取り出し、曲名を指した。
「ほら、聞きたいって言ってただろ?」
「あぁ!覚えていたのか?」
「俺様も聞きたかったからね。聞く?」
「うむ。」
イヤホンを片方だけ受け取って、耳に入れた。
カチ、と云う音がして、曲が流れ出す。
「む…いい曲だ」
眼を閉じて、ゆっくりと曲のイメージをを回想する。
「此れは、他にどんな曲が有ったのだ?」
「ん? んー…蒼い歌かなぁ」
「蒼い歌?」
「うん…。旦那にピッタリな───青春応援歌みたいなの」
「な…そう云ったものが好きなのか」
「ん…まぁね」
「ふむ…」
好きな曲と、好きな空。
遠くで、体育の掛け声が聞こえる。
高い声低い声。
交じり合わない声が響く。
「…美声だな」
「うん?」
「此れだ。佐助は良いと思わぬか?」
曲は、サビが終わって、最後のいいトコに差し掛かって居る。
「俺様はねぇ……旦那の声良いと思うよ」
「え?」
一瞬、曲が聞こえなくなった。
「声。でかいけどね。」
「なっ、そ、そー…れは、ぅむ、…」
他に、返す言葉が思いつかない。
「…あ、曲終わった。別の曲、かけとくね。」
「おぁっ、一番いいところを聞き逃したぞ!」
佐助ががおかしなことを言うからだ!
「何してんのさー。もう1回かけよっか?」
「い、いや、構わぬ」
ふぃ、と視線を逸らして、幸村ははたはたと揺れる校旗を見下ろした。
「うーん。あと四十分以上残ってる。」
「そ、そうだな」
声が良いだなんて言われたら、妙に意識して仕舞う。
「さ、佐助!そう言えば、かすが殿とは」
「かすが?あぁ、なんでもないよ。」
幼なじみなだけ、と肩を竦めた。
「ウワサが勝手に独り歩きしてるだけだって。」
「なっ、ふらふらする等、破廉恥な!」
「何でさぁー。俺様未だ、何にもしてないじゃない。それに、旦那と居る方が楽しい。それだけだよ」
「む……そうか。───……良かった。」
「? 何でさ」
「判らぬ。只、良かったと思う。」
「本当?」
「嘘は吐かぬぞ!」
へへ、と佐助は嬉しそうに笑った。
(まるで子供の様に笑う。)
と幸村はこっそり笑った。
「で、旦那は如何なの?好きな奴居る?そう云う話俺様全然聞かないな〜」
「なっ、こ、恋など破廉恥なっ…」
「え〜俺様ばっか言うのは嫌だなぁ。何かないの?」
「むむむ…」
じっと考えてから幸村は目を閉じて、小さく笑った。
「居らぬな。」
「へぇ…」
「俺にはやらねば成らぬ事が多すぎる。」
「そっか」
佐助は詰まらなそうに視線を外した。
「───勿体ないなぁ。旦那。」
「?」
「旦那、絶対モテるよ。だからさ、勿体ない。」
「そ、その様な事…破廉恥な!」
「旦那堅いよー」
茶化すように佐助が笑った。
「でも、旦那のそう云うところ俺様好きだよ」
「そ、そうか」
二人を繋ぐイヤホンが、風に揺れた。
「…此処は良い所だな。」
「見付かるまで居よっか?」
「見付かったら拙いだろう。」
「其りゃそーだ。」
笑いあって、空を見上げた。
「───旦那、好きだよ。」
「あぁ、俺もお前が好きだ。」
「…………俺様今…物凄い事言った上に、更に凄い事聞いた気がする。」
「…俺もだ」
妙な間と、妙な感覚に視線が泳いだ。
青々とした空が広がっていて、モヤモヤした脳内が綺麗に成ったみたいだなんて。
───酷く正直な言葉に驚いてみたり。
「…旦那、顔赤い」
「う、五月蝿いぞっ」
そして、其の空と、イヤホンから漏れる曲は、ピッタリだった。
「…───俺は、此の曲忘れないだろう。」
「俺様も、覚えとくよ。」
手を繋いで、肩を寄せ合った。
そして、そっと触れるだけのキスをした。
「───なっ、ぁっ、さ、さすけっ…」
「ちょ、俺様まで恥ずかしいんですけど……」
「む、うぅ…は…破廉恥…」
佐助は、くく、と笑って、あー最高、と呟いた。
何時の間にか、メロディは途切れていて。
「…む、もう、返すぞ。」
幸村が耳から取り外そうとして、あ、と佐助が声を上げた。
「なんだ?」
「…何かさ、こうやって、繋がってるの良くない?」
「!」
心臓が跳ねた。
佐助が少し恥ずかしそうに笑ったから。
「う、む」
嗚呼、そんなに嬉しそうに笑われると、跳ねる心音が聞こえて仕舞いそうだ。
二人を繋ぐイヤホンは、再び静かに音を伝え始めた。
End
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