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黒白ノ風
547 癒場
お風呂に到着し、着替えを済ませた。
どうやらここの風呂は露天風呂らしい。

ガラガラと曇ったガラスでできた引き戸を横に滑らせてから石畳の空間に足を踏み入れた。



 「・・・おぉ…」
そこで思わず言葉にならない声が口から勝手に飛び出した。

見上げると、まるで絵の具を塗ったかのような蒼く澄み切った空が広がっていた。

そしてそのまま目線を下ろすと、先程の綺麗な青空までもがかすんで見えてしまうような紅葉が竹の柵越しに並んでいた。

紅と、橙と、黄色のコントラストが絶妙である。

先程、青空がかすんで見えると思ったが、空の蒼が一層と紅葉を引き立てていることにも気づいた。



しかも…
誰ひとりとして人の気配がしない。


まさに貸し切り状態である。



私は上機嫌で簡単に体を洗い流し、石造りの湯舟へと足をつけた。

 「・・・はぁ〜」
そのまま肩までつかり、ほっと一息。
まるで全身の疲れが透き通ったお湯に吸い取られているような感覚だ。

しばらく目を閉じ、その余韻に浸った。






ししおどしが地面を叩く。
竹と石の音が織り成す何とも風情のある音である。

別の場所に耳をやってみたところ、ざわざわと葉と葉の擦れる音がした。

それと鳥がさえずる声。



この場所は自然が生きている。
そんな気がした。


 「幸せだ…」
・・・はぁ、こんなに幸せでいいのだろうか…?



 「・・・」
そう思ってからはっとした。

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あきゅろす。
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