黒白ノ風 527 鈍動 まるでスローモーションのようだった。 トビの腕の関節から下は綺麗に切断され、ただ赤い血だまりに波紋を作った。 それは元々腕に付いていたということを疑いたくなるほどに、ぴくりとも動かなかった。 私は少しばかり混乱して、それをただ見ていた。 「・・・」 はっとしたように自分の傷を見る。 クナイは… 刺さったままだ。 元々劣勢だったが、最悪の事態は避けられた。 しかし、私はトビに何もしてはいない。 なのに勝手に腕がちぎれるはずもない。 誰かが・・・ 気配… この場所に新しい気配がある。 トビの話と自分の傷に集中しすぎていて、今まで気付かなかった。 ゆっくりと顔を上げながら、少し右を向いた。 …その人はそこにいた。 先程から、今も感じている寒気の原因。 その人は短剣をぎらぎらと光らせ、切っ先をトビに向けたまま冷静に見据えていた。 「…ハ、ク・・・?」 私は口から血を垂らしながら、信じられないような口調で問いただした。 [←][→] [戻る] |