黒白ノ風
524 不快
「・・・!!!」
用意していた言葉は言わなかった。
いや、言えなかった。
ドアを開いてまず視界に入ったのは片目だけ穴のあいたオレンジの仮面。
「あはっ、こんにちわぁー」
そしてどこまでも不愉快なおちゃらけた声。
・・・そう、トビだ。
「ふむふむ、ここがサチセンパイの部屋ですかぁ」
「・・・なんの用…?」
「いやぁ、いい部屋っすねぇー」
冷たく言った私を無視しながらトビは言葉を続けた。
その言動は気持ち悪いほど自然だ。
もともと私とトビに何らかの関わりがあったかのように錯覚するほどだった。
「お前に来られても話すことなんか何も…」
「そうだ。ない。」
いきなりトビの口調が変わった。
話の筋は通るらしい。
「…オレがここに来た理由は」
「・・・!」
突き刺さるような殺気を感じた私。
ただならぬ空気に同調するように身構えようとした。
身構える前だった。
トビの手に鈍く光る刃物が握られているのが見えたかと思えば、それは私の心臓めがけて勢いよく飛んできたのだ。
気付いた時には遅かった。
グサッ
音を立てて突き刺さるクナイ。
「…ここに来た理由は柏サチ、お前を殺すためだ」
片目だけ見えるトビの眼が三日月形につりあがったのが確認できた。
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