黒白ノ風
339 昔話
「昔、ダンという男がいた。そいつは私の彼氏だった」
「・・・」
シズネさんの表情が僅かに曇る。
「まぁ、今や亡き人だけどね」
「・・・」
それは知っている。
綱手お姉サマの愛した二人目の人。
「昔は時代が悪かった。戦、戦、戦。どこもかしこも戦だらけのご時世だ。今の平和な木の葉と比べものにならないほど悲惨なものだった。当然死傷者も出る。例えそれが身内であっても関係なく…な」
「・・・」
「そんな折、ある日の戦中…ダンの負傷をお前の母親が息を切らせながら知らせに来た」
「・・・」
今と、全くとまではいかないが一緒の状況ではないか。
「あの時のアタシは若かった。止まらない、どんどん流れ出る血液。随分と混乱していた・・・結局ダンは死に、残されたのは首飾のみ…」
「・・・」
…。
綱手お姉サマは過去の痛みを克服している。
その悲惨さを後の者に言い伝えられるほどまでに。
痛みを引きずる私とは大違いだ。
「…何辛気臭い顔してんだい。ま、いきなり昔話を始めたのがいけないんだけどねぇ」
「・・・」
「心配するな、アスマはアタシが助けるからね」
昔とは違うよ…
そう付け足して綱手は笑ってみせた。
「うん」
幾分かほっとした。
話しているうちに木の葉の里に到着したということも私を安心させる。
・・・よかった、まだ7分程度しか経っていない。
バン!
「やっとこ着いたな・・・」
病院の裏口のドアをこれまた豪快に開け、呟く。
「・・・綱手様!!?」
綱手の存在に気付いた受付の看護婦さんは驚いている様子。
「まだ7分しか経っていないのに…!?」
信じられないといった様子だ。
「・・・フゥ…・・・あり?」
ドサ
急に力が抜け、私は前のめりに倒れた。
「相当疲労が溜まっている。無理もない・・・そいつを病院のベッドまで運んでおいてやってくれ」
「分かりました」
「行くよシズネ!!」
「はい!」
曲がり角に消える綱手を見送ったところで、私は意識を手放した。
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