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黒白ノ風
170 柔風
黒い場所でひたすらに落下する私達。
私達は昨日気付いたら私がいた場所と同じ、闇のみしかない場所にいた。
ただ昨日と違うところといえば落下しているということ。
昨日の私はこの場所で上昇していた。
そして家の中へと降り立ったのだった。

黒い風景と柔らかい風は私の心境を示しているようだった。
黒い風景は今の自分が知らないことを知ろうとしている曖昧な部分で、柔らかい風はそれに私がかすかでも希望を持っているかのようだったのだ。

横にいるおばばはというと
 「あははー」
などと言いながら体に風をめいいっぱい受けながら落下していた。

本当にこの人が難しい印を結んで私をここにいざなったのか…?
と疑いたくなる。
だけど、難しい印を結んでここに私とおばば自身をいざなったのはまぎれもなく本当である。
・・・おばばって何者なんだろ。
今までは普通の母親として一緒に生活していた。
しかし、今この人が違う世界の人のように思えている。
…不思議な気分である。

 「おっ!」
風景が、変わった。
先程の黒しかない場所とはうってかわって開放的な大空が私の前に広がった。
思わず手を広げてスカイダイビングのように風を感じてみた。
 「きもちいーv」
 「そうね。上空から落下するのは久し振りだわ」
それから少しの間、私達は心ゆくままに風を感じてたのだった。

 「・・・そろそろ地面ね」
 「…あ、本当だ」
おばばの声を聞き、下に目をやる。
そこには硬くならされた灰色のアスファルトの地面があった。
・・・それより、ここの場所は見たことがある…
…どこだ?
どこで私は・・・!
…そうだ、漫画の中でこのような光景を見たことがある。
木の葉隠れの里。
今私が見下ろしている場所はサスケが里を抜ける際に使用していた道だ。
・・・“あなたは木の葉隠れの里にいたのよ”…
おばばの言った言葉が私の中で再度響く。
今ならこの言葉の意味も少しは理解できるような気がする。

 「さて、そろそろ地面だから場所を移動するわよ?」
 「・・・うん」
・・・どこに行くんだろう。
私がそう思った頃にはおばばはもうすでに印を結び終わっていて…瞬身の術かな?
それで目にも止まらぬ速さで移動していた。
アスファルトの地面の上を移動していたと思えば次に店らしき建物が建ち並ぶ商店街のような場所を移動していた。
また次に気付いた時には森の中を移動していた。

 「着いたわよ」
おばばからの声。
いきなり速く移動するものだから私の体がついていけず、ぼーっとしてしまっていた。
 「…あぁ、うん」
ここでやっと止まっていたということに気付かされた。

顔を上げる。
私達がいる場所は青々と緑が生い茂る森の中だった。
空気が新鮮に感じられる。
 「・・・真白っ」
おばばはいきなり誰かに話しかけ始めた。
 「・・・?」
私はそれをいぶかしげに見やる。
おばばが声を発した時、森がざわついたような気がした。
涼しい風が吹き抜ける。
ガサッ
小さい茂みが揺れた。
 「…?」
少しして、その茂みから何かが現れた。
現れたのは以前に私の頭に浮かんだ小さく、真っ白な兎だった。
 「おぬしは…!」
出てくるなりその白兎は喋った。
しかもとても驚愕している様子で。

私達の間でしばしの沈黙が続いたのだった。

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