黒白ノ風
169 旺盛
「…え?」
正気か?この人は。
皆の話を聞く限り私は昨日、1日間ここにいなかったことになっている。
私でもどこにいて何をしていたのか知らない。
なのに何故おばばは私のことを知っている?
おばばが読んでいたらしい“私が着ていた変な服のポケットから出てきた更に変で古びた本”が関係しているのか?
おばばは微笑みながらこちらを見ている。
あまりにも私の目をとらえてはなさなかったので思わず私が目をそらした。
「・・・よ、よく意味が…」
「そのままよ。昨日、いや、むこうでは2年間位…サチちゃんがどこにいたのか」
「…2年間?昨日1日が“むこう”で2年間?」
…こんなおばばは見たことがない。
私は本当の人生の一番大切な選択を迫られている錯覚におちいった。
「・・・知りたい?知りたくない?…どっち?」
「・・・」
知ったら最後、後戻りは出来ないというわけか。
反面、知らなければそのまま。
今までの日常生活を送ることになる。
選択を迫られる。
だけど、もう答えは決まっていた。
私でも知らない私のこと、漫画の中のサスケという人物、謎の白いブレスレット。
「・・・私は…知りたい」
謎の正体を知りたいのだ。
まぁ謎が無くとも私は好奇心旺盛な方なので知りたいという答えにたどりつくのだと思うけど。
「そう・・・」
おばばは呟き、一息おく。
そして口を開くのだった。
「・・・あなたは今まで木の葉隠れの里にいたのよ」
おばばの言葉を聞き、今まで私の中だけ時間が止まっていたということに気づいた。
そして、それが今音を立てて動き始めたような気がした。
「・・・真白…は、白い兎で・・・」
頭に浮かんだのは白い兎。
私の中では無意識にその白兎の横に真白というテロップが流れている。
・・・頭が痛い。
「無理に思い出さなくていいわ・・・それと、もう後戻りは出来ないわよ?」
「最初からそのつもりで返事した」
「そ、じゃあ行くわよ」
問題ないわね?と確認するようにおばばは私に問いた。
私はこくりとうなずく。
その瞬間、おばばは物凄いスピードで印を結び始めた。
わー、NARUTOだーv
などと思いながらそれを見る私。
しかし、おばばが結ぶ印は臨、兵、闘、…などといったキャラクターオフィシャルブックなどに載っているものとはレベルがはるかに違うのだ。
「よし!」
そう言うとおばばの下で黒くて大きな穴が開き始めた。
「サチちゃん、つかまりなさい」
おばばは私に手をのばす。
「…」
いつもリビングのソファーで鼻くそをほじっているおばばの手・・・あはりつかまりたくはなかったのだが、この際仕方ない。
パシッ
とおばばの手に強くつかまった。
すると私達更に大きくなった穴に引きずりこまれるように、リビングの地面の下へと落下するのだった。
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