恋に恋してた、のかもしれない
サソリさんにドキドキしていた自分、サソリさんの体になってドキドキしていた自分はどこへ行ってしまったのだろうか。
「はぁ、」
「はぁ、」
恋に恋してたみたいな溜め息が出た。
「何だァ、その失恋したみてーな溜め息はよ!らしくねーなァ」
「飛段もね」
溜め息が重なるなんて、まさかこいつもだろうか
「オレは失恋じゃねーよ、名前が好きだから悩んでんだぜ」
「…………!」
どうしよう。
ちょっとトキめいた。
「あーどうしたら抱けっかなァ名前ちゃん」
トキめきを返せこいつ
恋に恋してた溜め息じゃなかった。こいつの溜め息は、ただの不潔な溜め息だ
「で、そういうお前はどうなんだよ?なァー名前ちゃんに惚れてんのマジなのかァ?」
まさかサソリさんの体で恋愛トークをする日がやってくるとは夢にも思わなかった
と言ったらサソリさんの体になるなんて事も、夢にも思わなかったけれど。
「あー………」
ここはイエスと答えるべきところだろう。
いやいくら体がサソリさんだとはいえ中身が私なやっぱり私なら、イエスと答えたはずなのに。
「……どうだろう」
本音が出た。
「何だァそれ!さっきまで裸になって名前ちゃんに引っ付いてたくせによォ!」
メンテナンスの為だとは言えず
「まーお前と名前ちゃんが何にもねーって事は、遠慮しなくて良いって訳だよな!」
遠慮した方が良いとも言えず。
「よし、決まりだな!」
何も知らないままの飛段は何かを決めたようです。
「名前ちゃんをぜってー抱く!」
絶対こいつ殺される。
いや、死なないけど殺される。
何も知らないままそう決めた飛段は、そう決まっている事もまた知らないのだった。
恋とは何だろう。
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