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寂しがり屋な世界も愛して-企画参加夢。お相手雲雀さん、甘。
テーマ『ゴールイン』
25. 寂しがり屋な世界も愛して


「今日から一ヶ月、でしょ?」
「うん。」

そう答えた恭弥さんはいつもと同じ表情でした。


また、…任務かぁ。


仕事だから仕方ない。
わかってはいてもわりきれない心。


一ヶ月も離れるとなると寂しい。
貴方もそう思ってくれているだろうか―?





彼の背中を見送って、一週間。
まだ一週間。



ピッ
「もしもし?」

「何してたの?」

バイブの鳴っていた携帯を耳にあてると聞きなれた声が鼓膜を震わせる。
ご機嫌ななめみたいだ。

「ふふ、別に?」

はぐらかしてみたら更に低くなる声。


「まさか誰かと食事してきたんじゃないだろうね?」
「あら、正解。」

向こうの雰囲気が一気に悪くなった。
おお、受話器越しにも殺気って伝わるもんなんだ。


「誰?返答次第ではただじゃおかないよ」

「…だって、一番食事したい人がそばにいてくれないんだもん。
仕方ないんじゃない?」

「……」

ばつが悪そうに途切れた声。

そのあとわずかに電話から漏れてきたため息は
悩ましげな表情を現しているかのようだ。


「…そうだね、早く帰るよ。誰かさんがそこまで
意地が悪いなんて思ってなかったしね?」


「な、だって!…寂しいんだもん。たまには意地悪だっていいたくなるの!」


恭弥さんは大丈夫かもしれないけど私は寂しい。
だからこうして電話してる時くらい、愚痴を言って困らせてみたかったのに。
(本当に困らせたいだけじゃないよ)

でも恭弥さんのほうが一枚上手だったみたいだ。
出会った頃から彼に勝てたことなんてなかったけど、ね。


「…食事は京子ちゃんやハルちゃんとですよ〜だ。もう切るからね。」


恭弥さんと出会ってから私って寂しがり屋になった気がする。
今までそんなこと考えてもみなかったのにな。


「待ちなよ」
「…なに?」

「僕も」

「え?」

「……」
「……?」

「僕も、寂しくないわけじゃないよ。」
「…!」

一瞬何を言われたかわからなかったけど、

「ぷっ」
「何笑ってるの」
「…別に?」


だって、素直じゃないから。
寂しくないわけじゃない、ってことは寂しいと思ってるって判断して
いいんだよね。


「もしかして一日に何回も電話してきてたのもそれでですか?」

茶化すように訊いてみたらだったら悪いの?って開き直りが返ってきた。
きっと向こうでむすってしてるんだろうな。ふふ。


「恭弥さん。」
「なに?」


「早く帰ってきて欲しいって言ったらワガママ?」


恭弥さんがいない世界は寂しいんだ。



いつもは何も喋らなくても傍にいてくれるだけで
安心したりどきどきしたり嬉しかったり幸せだった日々が

貴方がいないとこんなにも切なくなる。


「私、恭弥さんがいなくなって気付いちゃった。寂しがり屋だって。」

明るく言ってみても切なさに痛む胸は締め付けるばかり。


「だから、電話してるよ。」
「わかってる…。」

わかってる。…わかってるんだよ。
やっぱりワガママだよね…


「そう。…意外だね」
「??」

「僕もそうみたいだ。」


君がいない世界は、なんだかつまらないよ。



そう告げた彼の声はなんだか哀愁を帯びていて
私はぐっと唇を噛み締めた。


そんな声で言われちゃったら会いたいなんてもう言えない。
だけど、これだけは言いたい。

「じゃあ喜んでおくね。」
「は?」

「恭弥さん、寂しがり屋な世界も愛して。」
「どういう意味だい?」


「だって、私のことを思ってくれてできた世界でしょう?
それなら私、凄く嬉しいから。」




私もそう思うことにしよう。


この寂しい思いは、貴方を想って作られた世界。
そう考えたら私はこの世界も愛することができるから。

―あと三週間、貴方を想って待つことができるから。


「…発想の転換だね。」
「素晴らしいでしょ?」


そう言った私は恭弥さんが向こうで笑っている気配を感じ取った。
やったね。

「紫騎。」
「ん?」

「ワガママじゃないよ。あと一週間で終わらせる。
スケジュールが詰まってるからね。」



嬉しいけど…三週間も残ってるのに一週間で終わるのかな?
誰かに仕事放り投げてきたりして。


「早く帰って君と過ごす時間を増やすことにするよ。
紫騎の元に帰ってきたら…一番に言いたいことがある。」


電話の向こうで優しい声が、私の胸をまた締め付ける。


ああ今笑ってるんだろうな。顔がみたい。




「もっと寂しがり屋になるかもしれないけどね。どうする?」

「いいよ。もっとその世界を愛することにしちゃう。」

「そ。じゃあ待ってて。」

「うん。じゃあまたね。」



幸せな日々が戻るまでは
この寂しい世界に思いを募らせて待つことにしよう。





「ただいま。」
「早ッ!」


私より寂しがり屋な人は、それから5日後に帰ってきた。

あの日電話した以来、
大量のメールと電話を私の携帯にかけてきた張本人。



「仕事は!?」
「切り上げてきた。」
「押し付けてきたんじゃなくて?」

「………それもなくはない。」



押し付けてきてるこの人!



「仕方ないよ。僕の大事な日になるんだから。」
「?どういう意味?」


彼はにやりと笑った。え?何が起こるの今から。


「結婚する?」
「え、な…っ!!」


小さな箱を取り出した恭弥さんは
星のようなきらめきを放つ指輪を薬指に嵌めてくれた。


「拒否権、ないけど。」



「恭弥さん…」

状況を理解できなかった私も流石に、段々状況が飲み込めてきた。

つまりは、…私と…

「泣いてるの?」

「な、泣いてません!全然っ、余裕で!」


なぜかそこで意地を張る私。
涙を堪えて恭弥さんを見つめる。


「ほ、本気ですか…?」
「僕はいつでも本気だよ。―どうするの?」


拒否権ないのに、一応訊いてはくれるんだ…


「…は、い。」
「聞こえないな。」

「しますっ」
「うん。こっち向きなよ」


「んっ」


そっと触れた誓いのキスに思わずも頬が緩んでしまう。


なんだか夢みたいだ。
ふわふわと軽い心。
胸の痛みはすっかり消えて、暖かいものが溢れていく。



やっぱり駄目だね。


寂しがり屋な世界も愛することにしたけれど、
貴方を想う愛には足元にも及ばない。



できることならやっぱり―


「恭弥さん。…大好き。」


貴方の側で、ずっと幸せを感じていたい。









「じゃあ紫騎の今までの寂しさを埋めるために、今日は一日
全身をつかって愛してあげる。―勿論、部屋で2人っきりでね。」

「へ?」




その頃イタリア本部では

「ヒバリの野郎、この借りはぜってえ返してもらうからな!!」

頑張って誰かさんの分の仕事をこなす獄寺隼人の姿があったとかそうでないとか。




END


はい、最後までご覧下さいましてありがとうございます。
黒澤涼子と申します。
この度は素敵企画に参加させていただき幸せです♪


企画してくださった紫苑様、そして
ご覧頂きました皆様、本当にありがとうございました。


ええと、今回のテーマが『ゴールイン』で結婚が連想できるけど
自由に書いて良いとのご連絡を紫苑様から頂き

ああ確かにゴールインといえばそうだ…!


納得した私は最終的に結婚してもらうことになりました。

紫騎様、お幸せに!


今回は他サイト様からの企画も含め3回目?なのですが
とても楽しめました。

前回2回は切夢だったのですが、今回は甘ですかね。
楽しんで頂けたでしょうか?

私としては楽しんで(でも苦しんで)書くことができました。

皆様もそうであれば嬉しく思います。


では名残惜しいですが今回はこの辺にて失礼します。
またどこかで会いましょう、アリベルチ。


PS
雲雀さんの「孤高のプライド」(了平と一緒のCDですが)発売を
楽しみにしている黒澤でした。


黒澤涼子

09/01/19


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