[携帯モード] [URL送信]
さよならと言う前に―雲雀夢。★悲恋注意!★自分の気持ちがわからなくて…



ああそうだ。

この人は私の大の苦手な人であり―

私の恋人なんだった。期間限定の。






「ねえ、聞いてるの?」

「っ!!聞いてます!!」


彼の低い声に反射的に答えてしまった私は
雲雀さんから訝しい目を向けられた。


綺麗な顔の眉間に皺が寄っている。

…怖い。


「じゃあなんて言ったの?十文字以内で述べて。」

「(え…えっとえっと)咬み殺す、ですか?」

「へえ。そうして欲しいの?」
「ちちち違います!」


この風景をみていたらどう見ても主従関係にしか
みえないんだろうけれど…


「一応」私は今彼の恋人ということに
なっています。……「一応」。



「…書類整理して。」
「え」


「そういったんだよ。終わるまで帰らせないから。」
「っはっはやく終わらせます。」

「賢明だね。」




私は仕方なく途中で放棄していたデスクワークに勤しんだ。


ああもう嫌だよ。


…大体どうして雲雀さんは私に付き合えなんて言ったんだろう。



(…あもしかして)

付き合えって、…風紀委員に入れってこと
だったんじゃないかなあ。










「氷之咲 紫騎。今すぐ応接室に
来るように。遅れたら…わかってるよね?」



それが悲劇を呼ぶ第一声だった。



急いだ私がノックしてドアを開けるとそこには不良の
頂点というべき彼がいて。



「僕と付き合ってよ。」




息の荒い私に向かってなんの前触れもなくまっすぐな瞳で言ったのだ。



その時私の心臓が合図のようにトクンと大きく響いた。


そう、この心臓の嫌な音は始まりを告げたのだ。
不幸という名の始まりを。


肩を落としてあからさまに落胆する私に雲雀恭弥は
ティーカップを口に運んで一口飲み下すと更に続けた。



「でもずっとってわけじゃない。」


数秒思考の停止した私は心の中でガッツポーズ。
期間限定ってことだ!いずれ解放されるんだ!!


そう思うと気分がかなり楽になる。


「期間は一ヶ月でいいよ。
そのあと更新するかどうかは僕が決める。」


よし一ヶ月で―――あれ?

「そのあと更新するか僕が決める?」


私に拒否権ないんですけど。



「返事は?」
「っ?!」

「返事だよ。口の利き方から教えた方がいいかな?」

シャキンとどこからだしたのか銀色の棒が二本。
私に光を放っている。



「は、はい!一ヶ月間宜しくお願いします!!」










付き合えといわれたのも好きだからとかじゃないみたいだし…
きっとそうだね。風紀に人が足りなかっただけなんだ。

そう結論づけて書類に判を押した。


出会いがしらの印象最悪な彼との付き合いももう
4週目に突入している。


一ヶ月はあっという間に過ぎていった。


あと一週間で雲雀さんのお眼鏡にかなわなければ
私は解放されるのだ。


一ヶ月、思えばずっと怖い事の連続だった。


不良を拿捕すると言っては嬉々として群れに飛び込む
雲雀さんを止めようとしたり


誰かが校則違反したら処理したり彼の秘書的なこと
したり。(勿論危ないことはしないよ)


私は雲雀さんという人物を知る度に恐怖したり
変に感心したり不思議な感覚に包まれた。




睨まれると怖い。凄く強い不良なのに借りは返すって
いう礼儀正しい所を持ってる。


何も喋らないかと思えば私にいきなり
「そう思うでしょ」って内容も説明なしに同意求めたり。


思えば三週間、色々なことがあったな。



でもやはり最初の印象は拭えなかった。

「怖い」


思いはすぐに払拭してはくれない。



最初に出会ったとき彼は私の知り合いを見ていて
切なくなるくらい痛めつけていたのだ。


「辞めてッ」


思わずしりもちをついた私に嫌な笑い方で雲雀さんは笑った。



その瞬間更に膨れ上がった恐怖は時を経ても尚
私の心をくすぐる。


警告のように。


(うん、やっぱり早く雲雀さんとは別れたいよね)



最近私と雲雀さんが付き合っているって変な噂もあることだし。




…なんとかしないと。

その思いはいきなり叶うことになったのだった。









「あ〜早く風紀の仕事辞めたいな〜」


いつものように放課後応接室の掃除。


「三週間も頑張ったけど…もう私嫌だな…
不良と付き合うの…」


そういってちりとりでゴミを入れようとしたとき

いつの間にかドアが開いていることに気付いた。



「はっ!あ、あの…!」


そして雲雀さんがドアの内側に寄りかかっていることを知る。


一体いつから―


「…」

無言で近づいてくる雲雀さん。

顔が怖い!!



「氷之咲 紫騎。」

「へ?あっ」


腕を掴まれた。
ひえぇっ!おお怒られる?!

「……」


「一ヶ月経っても変わらないね。」
「っ!?」


「君は僕に怯えてばかりだ。」


バンと鋭い音が鳴って私は壁際に
追い詰められていたことを知った。

顔が近くて変に緊張してしまう。

「……」

雲雀さんは私をじぃっと見ると私の両腕を自分の手で
拘束した。



恐怖ゆえにこれでもかというくらいぎゅっと瞑った私の瞳。

これでもかというほどに握られている私の両腕。




振り解けないと判断した私。
抵抗を諦めてそっと目を開いた。

「……っ!!」


その時雲雀さんは―



「そんなに僕が怖い?」

「!―っ」


更に顔を近づけられる。

「っ」


待ってそんなに近づかれたら―

「っ…」


まるで硝子を傷つけないよう丁重に扱うかのごとく

雲雀さんは私にそっと唇を重ねた。


ほんの2秒くらいの刹那。

でも私には時がとまったような感覚に落ちた。



どう、したらいいの?




心臓が破裂しそう。


バクバクバクバクしてうるさい。

私…雲雀さんが…苦手だ。

自分自身がわからなくなる。



こんな感情初めてだから戸惑ってばかりだよ。



「いいよ。」
「…」



すぐに唇が離れたかと思うとそんな言葉が告げられる。


そして


「そんなに嫌なら無理しなくていい。
二日早いけど今日で終わり。


もうここには来なくていいから。」




待ちに待った瞬間がきたのだ。


雲雀さんは私に背中を向けていた。


「早くどこかに言って。」



(っ!)

私はまた自分がわからなくなった。

待ち望んだはずの否定の言葉にこうも胸が痛くなるのは、なぜ?



「……」
「……」

背中を向けている彼をみつめてもう一度振り返ってと

わけのわからないことを必死に願うけど
雲雀さんは振り向かない。



…っ

「っさよ、ならっ!!」

震える唇をなんとか動かして声にすると走り出した。


ただただ走りだす。ただ走る。
前を見て後ろなんて振り返らずに。


顔が熱い。触れられた所はもっと熱い。


(雲雀さんっ)


言えた。
やっと別れを切り出せたのだ。

いえてすっきりしてる筈なのに


雲雀さんのことばかり頭に浮かんでは消える。

なぜか心は悲しかった。
満たされていなかった。

ぽっかりアナがあいたみたいに―






そう思いながら私はあの時の雲雀さんを思い浮かべる。…


振り解けないと判断した私が抵抗を諦めて
そっと目を開いたとき雲雀さんが―


「そんなに僕が怖い?」


少しだけ寂しそうな表情をしていたことはずっと忘れられないんだろう。


あんな表情をする理由なんて私にはわからないけれど。








(…今日から服装検査とかしなくていいから
楽だ……)



でも退屈っていうのはあるな…。


いつもより早く登校してしまった私はぶらぶら
歩いたりして時間を潰してから教室に入った。




「ねえねえ紫騎!!」
「ん?なあに?」


「あんた二週間前に階段落ちかけてたでしょ?

あれってやっぱり雲雀さんが助けてたみたいよ!」

私の友達の発言に私は固まった。



落ちそうになった私を受け止めた人はすぐに消えてしまって
私はお礼も言えなかった。



えっ…じゃあ私を何かと助けてくれたのって雲雀さん?
そんな話は嘘だと思って何も考えなかったけど…

まさか―。


「それにさ。雲雀さんってあんたの前だと
柔らかい顔するじゃない?」


「ううん!凶暴化するよ!柔らかい顔なんて―」



「ほいこの前の写真!雲雀さんとのツーショットある
よ!」




確認してみなと言われて写真を捲った私。
そこには…




(っ私といる時こんな顔してた?)


穏やかに薄く微笑む雲雀さんと私の恥ずかしそうな顔。


私も人のこと言えないじゃない!







夢にも思っていなかった。


(どうしよう…!)

せめて雲雀さんともう一度話がしたい。


そう頭に浮かぶのに体は動かない。


何をされるかわからないから怖いというのもあった。
でも…


それ以上に「雲雀さんに話しかけられて無視されたら」

…そう考えると怖くてつらい。


足は自然に止まってしまう。




臆病な私は「もしも」を考えて震え上がって
頭も胸も一杯になって…

あと一歩が踏み出せなかった。



そして雲雀さんも約束を守る人だから務めを果たすだろう。


これから私と雲雀さんは赤の他人。


お互いきっと何も喋らない。
目も合わせない。知ってるのに、知らないフリ。



ああ、さっきどうして「さよなら」なんて言ってしまったんだろうか。


こんなに後悔している自分は彼になにか特別なものを期待していたのだろうか。

その答えは―もう多分わからない。




さよならを言う前に

(せめてありがとうと、言いたかった…っ)





―そうして私達は、それぞれの道を歩み始めた。

決して交わることのない道を―




そして時間がかなり経過した後―

私がこの感情を「恋」と呼ぶことになる。




初めてで最後。それは―

さよならと別れを告げる以前に自分で閉ざしてしまった恋心。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!