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サクラサク、四月番外編〜十年後の雲雀さん〜―彼をまだ知らなかった日のできごと。

それは私が、
雲雀さんと会う2年ほど前のできごと―



きっと私は夢をみたんだと思う。

どこからともなく降ってきたバズーカくらい大きな
銃弾が私に当たって―

私は知らない世界に来てしまった。



煙が晴れて視界に入ったものは―和室とそこに佇む和服を着た男性。


「??」


私は何がなんだか分からなかった。
どうして家に不法侵入しているんだろう、私。


ふとその男性をみると―その人は一瞬目を見開いた後


「…ああ、そうか。」
一人で納得して目を細めた。


わ、男の人の声だ。なんとはなしにそんなことを思う。
…格好良いな。声もその和服姿も。


けど分からない。
何でそんな表情するんだろう。


まるで大事な人を見るような愛おしそうな瞳。


その瞳に映っている私には貴方のことは分からないというのに。


「ねえ、君。」
「は、はいっ!」

びくり、肩を震わせた…不法侵入したんだよね私…
怒ってたらどうしよう!?


でもでも私が悪いわけじゃないんです。
気付いたら勝手にこの家に!!


なんて言ったら頭のおかしい子だと思われるだろうか。
それはいやだけど…でもどうせ夢だからいいかな。


「聞いてる?」
「はい?き、聞いてます!」
「そう。」

おもむろに立ち上がった和服の人は私の前まで来て正座した。

そして顎をくいっと持ち上げられて


「じゃあ覚悟はできてるんだ?」


不敵な笑みを零す。



…へ?な、なにが…?

よく分からないけれど、私の身が危ない気がした。
この人変だよ!何かされそう!



「えっとまだできてませんっ!」

必死に言って体を後退させると彼はくすりと笑って手を放した。


「変わらないね、その反応。」
「…??え?」

全く訳がわからない。
この人、私を知っているんだろうか。


それとも私が貴方を知らないだけなんですか…?


「ねえ、君の名前当ててあげようか。」


その人は笑みを崩さないまま私に向かって問う。
もしかして知ってる…?でもそんな


「氷之咲 紫騎。合ってるでしょ。」


彼はまた立ち上がり元いた座布団の上へ腰を下ろす。


「な、んで…どこかでお会いしましたか?」
「いや。」



まだ出会ってないよ。

今既に会っているというのに噛み合わない言葉を返された。


「でも、君はもう少ししたら僕と出会うと思う。」
「はあ…」


「意味が分からないかい?」
「はい、あ、いえっ」
「…だろうね。」


くすくす笑う男の人。

その顔も格好良いのだけれど今の私にはさきほどからの
のれんに腕押しぬかに釘ーな会話の意味がとても気になる。



「詳しくは言えないけど、…そうだな、ヒントをあげるよ。」
「ヒント…?はい、下さい。」


「君は未来にきてる。」
「はっ?」


あそうか。夢だったんだこれ。 


「そうなんですか…?」
「うん。そして僕は未来の―なんだと思う?」


「きっ、聞かれても…私の友達、ですか?」
「…そんな群れに入っているようにみえる?」


試しに言ってみたら凄く不機嫌な顔をされて焦った。
そもそもむ、群れって…?


「ふぅ。相変わらず君は鈍いんだね、紫騎。」

そういって呆れたような声をだす和服の人。


でも何だかさっきと違って…暖かい言い方をしている…みたい。
確証なんてないけど。


「じゃあ答えをあげる。こっちに来て。」
「はい。」


手招きされるままやってきて耳を貸すと


「僕の大事な人。」


ちゅっ。
言葉と同時に頬に柔らかい感触。


はい…?……っ!



「なな何するんですか!」
「君が僕のことを忘れないようにね。」


そういって彼はじっと私を見つめる。
何故か胸がどきどきした。


「いつか出会うその日まで、僕を忘れちゃ駄目だからね。」


例え「今」がどんなことになっていようと
いつだって未来がここにある「今」になるように


僕を求めてたどり着いてみせてよ。


そう告げられた。


…難しくて意味がよくわからないのが本音なんだけれど
何故かとても大事なことを言われている気がして…目を逸らせない。


「あのっ、私…頑張ります。」


よく分からないなりに考えてそう答えると彼はうん。と一言言って微笑む。


…笑顔が凄く綺麗な人だ。


「あっそうだ。私貴方の名前を知らないんですけど…」


和服の人に尋ねてみた。



「まだ告げていなかったね。」


伸びていた背筋を更にぴんと伸ばし、そっと彼が
私の頬に触れる。



「僕の名前は―」


ボンッ


その瞬間、凄い音と共に視界がまっくらになった。


ああそうか。やっぱり。


夢だったんだ。


そう意識の隅で思いながらも私は彼のことが頭に
しっかり焼き付いていることに違和感を覚える。



…本当に、夢だったんだろうか。


目が覚めて私の部屋があったとき、
ほっとしながらも何故か惜しい気持ちになった。


夢だろうと現実だろうと、もう少しあの人と話がしてみたかった。


【いつか出会うその日まで、僕を忘れちゃ駄目だからね。】


心の中で声が響いた。

きっと私は忘れないだろう。いや忘れられそうに無い。


あんな綺麗な人、今まで出会ったことがないんだから。

本当に出会うその日。もしもそんな時が来たのなら―



そのときは改めてあの人の名前を訊ねよう。


そうして私は、あの時教えてくれた言葉の意味を
この先の未来で理解できるんだと妙に確信している。


出会えるなんてちっとも思ってない。
だけど巡り会えたならそれはきっと―運命だと思うから。


貴方に出会うまで私は貴方を覚えています。


忘れるわけがない。…きっと私の初恋だから。


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