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ある日の放課後




しまった・・・迂闊だった。
昨日、コートを途中脱いで帰るくらい暖かかったから着てこなかった。
なのに今日は寒い、早く帰りたい。
朝も寒かったが我慢できた。それに取りに帰るのも面倒くさかった。あのときの自分ばかやろう!

いま現在、後輩である榛名の帰りを彼の教室で待っている状態。
なのに一時間経っても待ち人来ず。
くそっ寒い。
当たり前と言えばそうなのだが・・・なにせ彼は俺が待ってることを知らない。
それもこれも携帯忘れたせい。
こんなときに限って携帯ないとか笑えない。持ってきとけば連絡とれたのに・・・。
さっき職員室に行ってきた。
榛名の担任に行き先を聞くために。
どうやら生物のノートを運ぶ手伝いをさせられているらしい。
教室に荷物が置いてあることから、戻ってくるだろうと思う。
てか、戻ってきてくれないと帰れない。いつ帰ればいいんだよ。
とりあえず昨日借りてたアンダーを返すの忘れて勝手に返しにきたのだけれど・・・。
まさかこんなに待つことになるとは思わなかった。
取り敢えず机に座りテスト期間中でもあるから、ペラペラと日本史の教科書をみる。
確か近世の時代からだったはず・・・あ、ここ伊藤さん。

運動場側の窓を見ると、もう真っ暗。
少し欠けた月と、そのまわりには点々とした星。
久しぶりにゆっくりと空を見た。
毎日、放課後遅くまで練習し夜空の中を帰っていたはずなのに。

ガラガラガラ

後ろの扉があいた音がした。
振り向くとそこには待ち人が目を見開いた状態で立っていた。

「――っ!?どうしたんっすか!?」

その場に止まってまるで幽霊でも見ているかの表情。
分からなくもないが・・・。

「お帰りー、アンダー返そうと思ってうえっ!?」

ずかずかとこちらまで近寄って、上から暖かいもの。
先ほどまで着ていたカーディガン、榛名の。

「明日にでも良かったのに!上に何も着ないでなに考えてんっすか?教室と言えども冬なんっすよ?」

ぶつぶつ呟いたあとため息を吐いた彼。嬉しいっすけど、と聞こえたのは空耳だろうか。
廊下側の窓を見ると真っ暗。
多分、教室で明かりがついているのはここだけだろう。

「なんで上に何も着てないんっすか?」

「――忘れたんだよ」

はっ?あんた馬鹿っすかという表情を浮かべた気が。
そのあとにやりとした表情。

「俺のカーディガン着てください」

「――え!?いいよお前寒いだろ」

脱ごうとすると後ろからガシッと肩を掴まれた。

「加具山さんが着ないなら俺も着ないっすよ。それにこうしとけば俺は充分温かいですし。」
ぎゅっと繋がれた手。
――温かい。

「でもこれ、誰かに見られたらどう説明すんだよ。」

「からだが大事なんっすよ?明日風邪ひいたらどうするんっすか」

妙に説得力のあるようなないようなことを強く言われてしまい、うなずいてしまった。
まあ、コートを着てこなかった俺が悪いのだから。

そのまま手は離されずに荷物を持って教室の外へ出る。

満天の星空。
教室よりも寒い外。
彼と繋いだ手が余計に温かく感じる。
風がびゅーっとふいた。
思わずぎゅっと強く握ってしまったことに恥ずかしくなり、向こうを見る。
ドクドクと心臓の音が聴こえる。
おいおい相手は後輩で男だ、落ち着け俺。
息を整えて彼を見れば目が合った。

――何か話さなければ

ドクドク

黙れ心臓。榛名に聞こえたら勘違いされるだろう。

――何か

「温かいっすね」

繋いだ手を一瞬見た。
お前恥ずかしいこというな。
まじ止めて。いま言って欲しくない言葉ベスト10に入りそう。だめだこいつカッコいい。今更だけど榛名カッコいいよ。

「・・・カーディガンありがとう。暖かいよ。」

頑張った。俺すごく頑張った。
なんかこの雰囲気嫌だ。恥ずかしい。
こう思う原因はナチュラルに繋いでる手ですね。おかしいよね。外の冷たい空気に冷やされて気付いたけど俺ら男同士だよね。
もう今更言いづらいけど・・・。


それとどうでもいいことに気付いた。
俺としてはとても気になるし、先ほど言いくるめられたことも少し腹が立つので言っておこう。

「榛名のちょっと丈長い!ムカつく!」
「は!?なんでっすか!?いたた」

カーディガンが少し大きかった。
それだけじゃないけど、繋いでた左手をぎゅっと強く握っておいた。
ちょっとした嫌がらせ。
痛いはずなのににやけてる彼にはもう知らないふりをしておこう。
帰り道の分かれ道まで誰にも見つかりませんように。


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あきゅろす。
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