ハニーキャット
10
目だけを瞬かせ何が起きているのか頭の中で考える。
え…なんで服のボタンはずそうとしてるの?
一つまた一つボタンがはずされていく内に脳裏に蘇る恐怖の記憶。
気づけば逃げるように体が後ろへと後退していた。
「あー…襲ったりしないよ」
そんなボクの姿を見て苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。
だけど、ボタンすべてはずし終えたらしくワイシャツから腕を抜く姿で言われても説得力が微塵も感じられなかった。
脱いだワイシャツを手に持ちコチラへと近づいて来たので離れようと試みるが、残念なことに壁へとぶつかる。
絶望のようなこの状況に恐る恐る顔を上げると…
「ゃ……っ…」
いつの間にかワイシャツを片手に持った彼が目の前に佇んでいた。
もうこれ以上逃げることは出来ないと悟り、無意味だと分かっていても目を瞑り自らの体をギュッと抱き身を縮める。
「そんな非情な男じゃないのにな…」
とボソリと呟く声は恐怖に満ちたボクには届かなかった。
怖い…怖い助けて…誰か。
恐怖の言葉を頭の中で巡らせていると一向に何もないことを不思議に思った。
その時、肩に微かに感じる何かが被さったかのような感覚にソッと手を伸ばす。
布?…あれこれもしかして。
そう思い意を決して目をやるとそこにはワイシャツを羽織らされていた。
「これ、着ときな?俺のでちょっとサイズ合わないかも知れないけど…」
優しい声がする方へ目を向けると膝をつき中腰になっているからか遠慮がちに微笑む顔が近くにあった。
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