大人になったら結婚してあげる
“大人になったら結婚してあげる”
そう言われてからもう何年たっただろう。
相変わらず日本では同性の結婚なんて認められちゃいなくて、俺と大嫌いな折原臨也の恋のかけひきとか言うのは未だに続いている。
例えば、
「もしもし?正臣くん?」
「何の用ですか」
「今から来てくれる?」
「今からって、俺今学校で…」
「よろしくー」
こういう一方的な電話とか。
「正臣くんってさあ、ナンパやめないよね」
「やめる必要性がわからないんで」
「俺と言うものがありながら?」
「うわうざい」
こういうたまに言われるドキッとする冗談とか。
「臨也さん、臨也さんってば」
「んー」
「寝るなら寝室行ってくださいよ」
「連れてって…」
こういう俺にしか見せない無防備な姿とか。
「正臣くーん!!」
「うわ、また酔ってるんすか!?」
「酔ってないよー、愛しの正臣くーん」
「酒くさいから離れてください」
「やだー、愛してるー」
こういう時に言いやがる甘い言葉とか。
相変わらずの調子で臨也さんは俺に愛してるを囁く。
相変わらずの調子で俺は臨也さんに嘘を吐く。
こうする事が唯一のあの人と俺をつなぎ止める方法。
結婚なんていう“永遠”を約束できるものがないとしたら、俺達をつなぎ止めることができるものはひとつだけ。
“臨也さんの俺に対する好奇心”
わかってる。
あの人が俺に抱くものは愛じゃない。
愛だけど、愛じゃない。
俺の愛とは種類が違う。
人間全般を愛してる彼と、彼を愛してる俺じゃ、差がありすぎる。
「正臣くん、愛してるよ」
だからこうするしかない。
「俺はあんたが大嫌いです」
本当は、
どこのバカップルだよってつっこみたくなるくらい、腹抱えて笑いたくなるくらい、いちゃいちゃしてみたい。
愛してるを言ってみたい。
でもそうしたらあの人は俺への興味なんてなくすから。
俺がどんなに好きでも、愛しても、
彼にその気がなければきっとすぐにでも崩れてしまうような関係。
痛いくらいにわかってた事は、
俺の代わりはいくらでもいる事。
例えばそこの道を歩く女の子。
例えばあそこで何かを話してるOLさん。
例えばそこを走っていった綺麗な人。
はたまた俺の知り合いだったり、いつか街中ですれ違ったパソコン抱えてあるくサラリーマンの男。
誰だっている。
何億といる。
その中のたった一人に過ぎないから。
だから俺はもう一度だけ言ってみたりするんだ。
「臨也さん」
「んー?なにー?」
“結婚しましょう”
多分、声は出ていないんだと思う。
なんでって俺の喉から言葉が出なかったからに決まってる。
なんて臆病な。
なんて臆病者。
ぽろりと目から零れた涙はパーカーに小さな染みを作った。
「大人になったら結婚してあげるよ」
優しい声が俺を包む。
でもね臨也さん、俺、知ってんだよ。
ここ何年かで、
身長も、あんたより大きくなりました。
体重も勿論。
力だって、もうあんたより上だ。
体も多少はがっしりしてきたと思う。
髪も落ち着いた茶色だし、
顔も童顔ではないと思う。
それでも俺は大人じゃないって事?
─…それは、
もう、
あんたは俺と結婚する気なんて―…。
「正臣くん、愛してるよ」
なんて優しく言う臨也さんの声に、俺は何も返せなくて、ただ涙だけが一粒落ちた。
【大人になったら結婚してあげる】
(いつになったら俺は大人になれますか)
end
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