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本当は嫌いなんでしょう?


「正臣くんてさあ、俺のこと好きでしょ?」


にやにやしながら、いつも通りの口調で問いかけてくるのは折原臨也。
俺はいつも、わざと悩むような短くも長くもない間を置いて、ため息と共に答えを吐き出す。


「違いますよ、その逆です」





本当は嫌いなんでしょう?





その日はざあざあと雨が降っていた。
せっかくの休日に土砂降りの雨なんて、それだけでも憂鬱になるのに。
突然、正臣の携帯がメロディを紡ぎながら震え、表示させたのは一人のムカつく男の名前。

『今日来ないの?』

問いかけているようで、そうではない。だって正臣は今日は勤務の日ではないのだ。
やんわりと含んだ束縛の意に隠すことなく舌打ちして、土砂降りの雨の中を傘差してやってきた。


「正臣くんてさあ、俺のこと好きでしょ?」


その不機嫌真っ只中のなかにこれだ。
自意識過剰にもほどがあるその問いは、しかし今日はじめて言われたものではない。臨也は正臣に会うたび会うたびそう言っているのだ。
だから正臣も会うたび会うたび同じ答えを同じ気持ちで吐き出す。

その逆だから、と拒絶して。

だが、今日は違った。
なあんだ、とつまらなさそうに言う臨也ではなかった。
臨也は薄笑いを浮かべたまま、また正臣に問いをぶつけたのだ。


「その逆ってことは嫌いってことかなあ」
「…当たり前じゃないすか。俺はあんたが大嫌いです」
「ねえ正臣くん、知ってる?」


甘く囁くような声は酔いしれそうな毒のようで、ビロードのような黒髪も、澄んだアルビノ、整った目鼻。
臨也はなにも知らなければものすごくカッコいい奴なのだ。
けれど臨也がどんな性格で、関わったせいで自分がどんな目に遭ったか正臣は身をもって知っていた。だからこそ、こうして臨也と話していても胸の内には嫌悪と拒絶がうずまいている。

急に、す、と臨也が手を伸ばして正臣の頬に触れた。
正臣は目を見開いて、臨也を上目に見る。


「好きの反対って、無関心なんだよ?」


簡単に説明するとね、嫌いってのはお互いに喧嘩したりして関係を持てるだろう?だけどもし、片方が急に相手に対して無関心になったら?相手のことをなんとも思わなかったら、喧嘩をすることも悪口を言うことも出来ないだろう?そうしたら二人はただの他人。喧嘩もしないし悪口も言わない。好きでもないし嫌いでもない。よく言うだろう、喧嘩するほど仲が良いってのはそういうことさ。


正臣が口を挟む暇もなく臨也はつらつらと言葉を並べた。
触れた頬をつう、となぞって、先ほどとは違う少しだけ嬉しそうな笑みで、臨也は笑う。


「俺はね、嬉しいんだよ」


ゆっくりゆっくり、確かめるように紡いだ。


「君と俺に、まだ、関係があるっていう事実がさ」





(好きなんかじゃ、ないんだ)
(でも、本当は、きっと、)






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