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もう少し、もう少し

「さて正臣君。突然ですが問題です」

いつの間にか隣に来ていた臨也さんが、握った右拳をこちらへ突き出してくる。

「この中に一つ、駒があります。これは王将でしょうか金将でしょうか、それとも他の何かでしょうか?」
「……オセロの駒」

少し迷ってからそう答えれば、臨也さんは驚いたように目を見開いた。開かれた手には答えた通りの物が。
ひねくれている臨也さんには、ひねくれた思考で対抗しなければならない。

「ご名答。引っかからなかったねえ。まあ、そんなわけだからオセロしようか」

どんなわけだ。
ツッコミを入れる俺を無視して、向かいのソファーで足を組み、どこからか取り出したオセロ盤と駒を広げ始める。

「俺、まだ仕事終わってないんすけど」

正直、単調な事務作業には飽きていたのだが、この人の相手をするよりははるかにましだ。

「休憩だよ、休憩。根つめすぎても効率落ちるし。あ、正臣君が白ね。本来は黒が先行だけど、いいや。譲ってあげる」

はい、と手渡された駒を眺める。やる? やらない? わざわざ尋ねてくるところからして、断れないこともないだろう。
今のところ強制力は皆無だ。この遊びにに乗るか乗るまいか。
少し迷ってから溜め息をついて、最初の一手を置いた。



十数分後。

そうだよな、そうだよな。
心中で妙な納得をしながらも、盤を引っくり返してやりたい衝動に駆られる。
3戦中3戦とも、黒の勝利。
臨也さんに頭脳勝負のオセロで勝てるなんて思ってはいなかったけれど、3戦とも全消しとなるとさすがに苛立ってくる。

「ホント、滑稽だよねえ」
「何がですか?」
「正臣君が」
「……あんたが手加減してくれりゃいいんだろ」

それもあるけどそうじゃなくって、と手にした駒を揺らしながら愉快げに笑う。

「大嫌いな俺とオセロしてくれる正臣君が、だよ」
「仕事のうちです」
「これは休憩だよ? 別に断ったところで減給したりはしないさ」
「……」

黙り込む俺をいつもの笑顔で一瞥し、事務デスクに向かう臨也さん。

「さて、仕事しないと。それ片付けといてね」


なんだかんだ言って、ここを心地良いと感じてしまう自分がいた。
おそらく、不必要と判断されればあっさり切り捨てられてしまうのだろうが。
もう少し、もう少しだけ。
この幸せが続いてほしいと、願う。



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