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雨の日に思う

カリカリとペンが走る音とカタカタとキーボードを叩くタイプ音。
それに、ザーッという雨の音。

かれこれ3時間くらい、ずっとその3つの音だけがこの部屋に響いていた。


(……いい加減帰りたい)


そうは思っても、今日はやけに仕事が多いのだ。
正臣が臨也の部屋に来たときも臨也はもう仕事を始めていた。
次から次へと仕事が入り正臣の手伝いも増える。


「…臨也さん、コーヒー飲みます?」


「んー、ありがとう頼むよ」


沈黙に耐えられなくなった正臣が立ち上がる。
長い間座っていたせいか、体が痛い。


「…立つついでです」


ずっとデスクワークばかりで疲れた体を伸ばすと、キッチンへと向かった。
臨也をちら、と見ればずっと視線はパソコンのまま。

そういえばこんなに忙しいのは久しぶりかもしれない。
そんなことを思いながらもう慣れた手つきでコーヒーを淹れる。
砂糖もミルクもなし、ブラックコーヒー。


「臨也さん、コーヒー置いときますよ」


「ありがとう」


コーヒーを置くも、臨也はパソコンとにらめっこのまま。


「…少し休んだらどうです?体に悪いですよ」


「大丈夫大丈夫、慣れてるし」


「…そういう問題じゃなくって…」


言葉では言いづらくどうしようかと思っていると、目の前の情報屋が小さく笑った。


「なあに?もしかして正臣くん、俺のこと心配してくれてるの?嬉しいなあ」


やっと今日はじめて臨也がパソコンから目を離し、正臣の方を向いた。
そのことに少し安堵し、慌てて言葉を探す。


「べ、つに心配なんてしてないです。むしろいつ過労死するんだろうって思ってたんです!」


「ひどいなあ」


臨也が視線を窓にうつす。
まだ雨はザーザーと窓に打ちつけやむ気配はない。


「雨やまないね」


「明日まで雨やまないらしいですよ」


「そうなんだ」


「そうなんだ、って…あんた情報屋だろ」


「そういうのは利益にならないし」


「あーはいはいそうでした」


呆れた。
さっさと仕事を終わらせて帰ろう。

そう思ってソファーに戻ろうとした、が。


「ちょっ…あんた何して、」


「正臣くん補給」


後ろから臨也に抱きしめられて戻ることはできなかった。
ぎゅう、と抱きしめられ背中に顔を埋められて少しくすぐったい。
体温が一気に上がったのがいやでもわかる。


「っ離せ変態!仕事しろ!」


「えー?だって少しは休めっていったの正臣くんじゃない」


「う…」


少しでもこの情報屋を心配して言ってしまった、数分前の自分が恨めしい。

ため息をひとつつくと、臨也に抱きしめられながら正臣は抵抗するのをやめた。


「?どうしたの?」


「…雨が、やむまでです」


「おや珍しい。耳、赤いよ?」


「う、うるさい!」


臨也がちら、と窓を見れば、そのガラスに恥ずかしそうに赤くなった顔を隠す正臣の姿がうつっている。
それを見て思わず口元が緩んでしまう。


「ねえ、正臣くん」


「…なんですか」


デスクの上では、正臣が淹れたコーヒーが冷めてしまっていた。
また淹れなおさないと、なんて思いながら、今はこの赤い頬をどうやって隠すか考える。

…たまには、こんな日も悪くない、なんて。
絶対認めてはやらないけど。



「雨、明日までやまないんじゃなかったっけ?」





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