空気が薄い気がする
いや、気のせいだけでは無い
俺の周りはただいま空気が薄いのだ
だってここは山の中腹
山と言っても景色なんてものは無い、辺りはぼんやりとクリーム色が漂っているような感じでもちろん俺が今まで登ってきた道には道と言えるようなものは無いし登るような道も無い
無いけれどやっぱりここは山の中腹で、俺は山登りの真っ最中と言うことだった
酸素不足、酸素不足
高山病の恐れアリ
直ちに下山せよ
「正臣くん?なに考えてるの」
「‥…樹海あたりのことを」
ふうん、興味無さそうに臨也さんはテレビの画面に視線を戻す
それから負けてるよ、と俺の操るキャラクターの順位を教えてくれた
―くそ、いつの間に
臨也さんが俺を呼び出す時はいつも気紛れで突然だ
今日も今日でいきなり「マリカしたい」の一言メールで呼び出された俺は必死に画面内でのレースに挑んでいる
そして確かに順位は地道に落ちている、が明らかにさっきから俺の前について攻撃を仕掛けてくるこの人のせいだ
お陰様でゲームを始めてから全て俺はビリっけつで臨也さんはブービー賞
「残念だったね」
「そうですね」
ゴールして、結果は今までと何ら変わり無い
そして臨也さんが俺にかける言葉も変わらない
とりあえずこのゲームってこんな雰囲気でするもんだっけ?
違うだろ、帝人や杏里と一緒にやった時はもっと楽しかった
ゲームをしたことが無いと言う杏里に帝人と2人で必死になって教えて、自信があると豪語した帝人は何気に凡ミスが続いて全く俺に勝てなくて
いや、まあ何が言いたいってとりあえず楽しかったってことだ
なのに今は、隣が臨也さんってだけで急降下しているテンションが、その人の嫌がらせによって超低空飛行を続けている
「飽きたね」
「そうですね、じゃあ俺そろそろ帰ります」
「駄目だよ、負けたんだから罰ゲームしなきゃ」
「そうですね…って、はあ!?」
そんなの聞いてない!!
非難の目を向ければいつの間にかコントローラーを置いていた臨也さんとばっちり目が合った
にこりと世間一般的に爽やかな笑みをしているが、寒気しかしない
この人の罰ゲームだなんて友だち呼び出して告白ーなんて軽いものじゃ無いに決まってる
それこそ平和島静雄を殺して来いとか言いだしかねない
「しませんよ!」
「なんで」
「そんなの言って無かったじゃないですか!」
俺の言葉に、臨也さんがぴょこんと首を傾げる
これが可愛い女の子だったらもうストライク間違いないけど、あんたがやっても不快感しかないんだよそこの成人男子!
「まけたのに?」
「…‥っだから、」
きっとここは山の中腹
山登り真っ最中の俺は頂上を見つけた
さあこれからどうしよう、そんなことを考えていたら体がぐんと傾いていって視線は真上
そんな視界の角で上に立つ男が見えて、ぼんやりとああまた登り直しかとため息をついた
「なに、すれば良いんですか」
「さすが正臣くん、賢い子は嫌いじゃ無いよ」
どーも、仏頂面で返せば語尾に音符マークが付きそうなくらい軽い口調で臨也が何にしようかなあと悩むフリをしながら呟いている
白々しく候補が3つあるんだけど、と指を立てて俺を見た
底まで落ちて、俺はようやく酸素がある所まで来たと言うのに、今までと違い濃すぎるそれに俺は激しく咳き込んだ
大丈夫?かけられた声、気付けば側に立っていた彼は静かに俺の背を押すのだ
ああ、空気が薄い気がする
(だけどそれが、丁度良い)
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